【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
第三章 惹かれる心
お盆休みの後半、急遽武尊さんのご両親との食事会が決まった。一緒に食事をしようと電話を掛けてきたお母さんに武尊さんは『そんな急に言われても困る』と断ろうとしていた。
『私もご挨拶したいです』
 小声で武尊さんに伝えると、彼は渋々ながら私のお願いを聞いてくれた。
 家からほど近い場所にあるイタリアンレストランで待ち合わせをして食事をしつつ挨拶を交わす。
「ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ありません。河合小春と申します」
「そんな固くならないでいいのよぉ。どうせこの子が『挨拶なんてしなくていい』って言いだしたんでしょう?」
 お義母さんの言葉が武尊さんの言葉で脳内再生される。
「武尊は昔から芯が強くて一度言い出したら聞かないんだ。だから、気にしないでくれ」
 続けてお義父さんがワインを嗜みながら言う。
 武尊さんのご両親は想像よりもずっとフレンドリーで親しみやすかった。
 私の隣の席に座る武尊さんは牛フィレ肉とフォアグラのソテーをつまらなそうな顔で頬張っている。
 祖母や若菜と一緒に食事をした時とは違い、明らかに早く帰りたいオーラを放つ武尊さんに私は心の中で苦笑した。
 すると、奥のテーブル席にウエイターが数人集まり、何やらスマホを片手にオロオロし始めた。客は観光客らしき外国人の家族だ。
「どうしましたか?」
 お義父さんがウエイターを呼び止めて事情を尋ねる。
「実はドイツのお客さまがいらっしゃって。何かを訪ねているのは分かるんですが、誰もドイツ語を話せる者がいなくて」
「そうでしたか。おい、武尊。お前、医者なんだからドイツ語話せるだろう?」
 お義父さんの言葉に武尊さんが顔を引きつらせる。
 それに気付かずウエイターは「本当ですか!」と声を弾ませた。
「無茶言うな。分かるのは一般的なドイツ語のカルテ用語だけだ」
「でも、英語はペラペラだろう? とにかく人助けだと思って行ってこい」
 武尊さんはやれやれと立ち上がり、ウエイターに連れられて奥の席へ行く。
 彼が何かを告げると、外国人家族がすぐに笑顔になった。武尊さんに何か伝え、彼は通訳してウエイターに伝達する。
 すぐに問題が解決したのか、武尊さんは外国人客に握手を求められ、それに応じた。
 それを見ていた周りの客やウエイターが武尊さんに盛大な拍手を送る。
「武尊さん、カッコいい……」
 その一部始終を目撃して、ついポロリと言葉を漏らして私も手を叩いた。
 困っている人をさらっと助けるその姿に感動が込み上げてくる。
こちらへ歩み寄る武尊さんはまるでスーパースターのようだ。けれど、騒がれている当の本人は渋い表情を浮かべている。
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