【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
食事会から二週間ほどが経った。
この日、月初めのレセプト業務に追われ、家に帰ったのは二十二時を過ぎていた。
クタクタになりながら玄関の扉を開けた瞬間、スリッパを鳴らして武尊さんがやってきた。
 武尊さんの表情はいつにも増して険しい。
「おかえり。遅かったな」
眉間に皺を寄せたままと言う武尊さんの眼光はいつになく鋭い。
「ただいま帰りました。あのっ、武尊さん、何か怒ってますか?」
「いや、まったく」
尋ねると、武尊さんは違うとすぐに否定した。
自分でも気付かぬうちに何か怒らせるようなことでもしてしまったのかと思っていた私はホッと胸を撫で下ろす。
「今日はどうしてこんなに遅かったんだ。何回もメッセージを入れたり電話をかけたりしたんだぞ?」
 彼の言葉でハッとする。
「ああ……すみません。今日は月初めのレセプト業務で残業をしてきたんです。スマホは勤務中はロッカーに入れていて、帰りも急いでいたので確認しませんでした。もしかして何か急用でしたか?」
 バッグからスマホを取り出してギョッとする。武尊さんからはメッセージはもちろん複数回着信が入っていた。
 私が尋ねると、武尊さんはやれやれと溜息を吐いた後、私を見つめた。
「いや、小春が無事ならそれでいい。ただ、遅くなる時は必ず連絡を入れてくれ」
「……はい。分かりました」
 仮初とはいえ、私は武尊さんの妻だ。若菜と祖母の暮らすマンション費用など、金銭的な援助もしてもらっている。それなのに仕事にかまけて家のことをおろそかにするなんて許されるはずもない。
「武尊さん、すみません。今から急いで夕食の準備をしますね」
 スリッパを慌ただしく履いてリビングの扉を開けた瞬間、ふわりとカレーの良い匂いがした。
「もしかして武尊さんが作ってくれたんですか?」
 驚いて尋ねると、武尊さんは私から目を逸らしながら首を擦った。
「腹を空かして帰ってくると思って作っておいた。だが、料理はどうも苦手だ。簡単な物しか作れないし、味の保証はできないからな」
「嬉しい……。ありがとうございます」
 笑顔でお礼を言う。武尊さんの手作り料理を食べるのは始めてだ。
「今、カレーを温めるから少し待っていてくれ」
 武尊さんはそう言うと、キッチンに立ち私に背中を向けた。
「え、武尊さんは?」
「一緒に食べようと思って待っていた」
 その言葉に喜びが込み上げてくる。
 私が手を洗っている間に、武尊さんはダイニングテーブルにカレーとサラダを運んでくれた。
「いただきます」
 両手を合わせて早速カレーを口に運ぶ。武尊さんはよっぽど料理の味に自信がないのか、私の反応を固唾を飲んで見守っている。
「すごく美味しいです」
「それならよかった」
 にこりと笑って言うと、武尊さんは張り詰めていた表情をほんの少しだけ緩めた。
「そういえば小春は車の免許は持っているのか?」
「一応持ってます。でも、車もないしずっとペーパードライバーです」
 ありがたいことに前に暮らしてたアパートも武尊さんと暮らす今のマンションも歩いて行ける距離にスーパーやコンビニなどもあり、車がなくてもこれといって不便しない。
「そうか。それなら週末、一緒に車を見に行こう。好きな車種があれば教えてくれ。もしないなら、ボディが頑丈な車にしよう」
「え? く、車ですか?」
 平然と言う武尊さんに驚く。
「月初めはレセプト業務で忙しくて残業になるんだろう?」
「そうですけど、どうしてそれが車に繋がるんでしょうか?」
「診療所から家までの間に数か所電灯もなく人気の少ない場所があるだろう。あの辺りに以前不審者が出たという話があった。女性がひとりで歩くのは危険だ。車だったらそういう心配はなくなるだろう」
 私は心の中で首を傾げる。
 私、武尊さんに診療所から家までの道のりを話したことってあったっけ……?
 とはいえ、武尊さんは私の心配をしてくれているのは伝わってくる。
「武尊さんの気持ちはありがたいですが、運転には自信がなくて」
「……そうか。確かに運転に不慣れだと事故の危険性もでてくるな。そうなれば、本末転倒だ」
 武尊さんはなにやら難しい顔でぶつぶつと呟いた。
「分かった。それなら、俺が迎えに行く」
「そ、そんな! 武尊さんに迎えに来てもらうなんてそんなことできません」
 救急医の武尊さんが日々激務なのは知っている。そんな彼に迷惑をかけるわけにはいかないと丁重に断る。
「迷惑なわけがないだろう。日勤の日なら時間に余裕もある。俺が夜勤の日はタクシーで帰るんだ。いいな?」
 彼の言葉には確かな圧がある。
「分かりました」
「約束だぞ」
 結婚してから、私は武尊さんが意外に心配性な性格だと知った。
『もしもの時の護身用だ』
 武尊さんから防犯ブザーを渡され、出勤する際に持っていく通勤バッグにつけることを命じられた。
 さらにその日から数日間、約束通り日勤の日は武尊さんが診療所の駐車場まで私を迎えに来てくれた。
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