【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
二十一時にパーティーが終わると、私は武尊さんのご両親と翔真さんに挨拶をして帰宅の途に着いた。
運転手の武尊さんは一滴もアルコールを摂らなかった。私はといえば、強くないお酒を飲んだせいで若干足元がおぼつかない。パーティーは終始アットホームな雰囲気で居心地が良かった。そのせいでどうやら飲み過ぎてしまったようだ。
「着いたぞ。小春、大丈夫か?」
「はい、らいじょうぶです」
「全然大丈夫ではないな」
 武尊さんが呆れるのも無理はない。呂律の回らない私を車から降ろし、体を支えて歩き出す。
 その時、ふわりと武尊さんの方から甘いムスクのような匂いがした。途端、胸がトクンッと小さな音を立てる。
「あと少しだ」
 玄関でヒール靴を脱いで廊下を歩き、自室へ連れて行ってもらう。
 何とか部屋の扉を開けてベッドへ導かれていた時だった。
「キャッ!」
 急に足がもつれて、その場に倒れ込みそうになった。
「危ない!」
 武尊さんは短く叫び、私の体を庇うように引き寄せた。その拍子で私は武尊さんにベッドに押し倒される形になった。
「ご、ごめんなさい!」
「俺は大丈夫だ。それより小春、ケガはないか?」
 すぐさま謝る私に武尊さんは自分のことは二の次で私のケガの有無を心配そうに尋ねる。
「はい……」
「そうか、よかった」
 武尊さんはそう言ってほっとしたように表情を緩めた。表情豊かではない彼が見せた安堵の表情を見て胸が熱くなる。
「武尊さん……」
 彼の名前を呼ぶと、武尊さんはハッとした表情を浮かべて「すまない」と謝り慌てたように私から離れようとした。
 私達は契約結婚で、彼には愛する人がいると知っている。それでも、彼への熱い想いが止められない。 
「私……もっと武尊さんのことが知りたいです」
 酔いの勢いも手伝い、私はついうっかり心の声を口にしてしまった。
 はたと我に返るも、時すでに遅し。
 目が合った瞬間、武尊さんは少し驚いたような表情を浮かべた後、何か逡巡するような切なげな瞳を私に向けた。
 こんなことを言っても彼を困らせてしまうだけだ。
「あの、武尊さん――」
 慌てて訂正しようとした時、彼の顔が近付いてきた。
 唇に柔らかな感触を覚える。それが彼の唇だと気付いた途端、心臓が早鐘を打つ。
 武尊さんは一度唇を離すと、角度を変えて再び私の唇を奪う。
 優しく唇を食まれて蕩けてしまいそうなほどの心地よさに包まれる。
 目を瞑って彼のキスを受け入れていると、息継ぎの合間にほんのわずかに開けた唇の隙間から舌が差し込まれた。
 武尊さんは私の反応を伺うようにゆっくりと舌を絡めとる。
「んっ……」
 深いキスを繰り返していると、意図せずに吐息交じりの甘い声が漏れた。
 その瞬間、武尊さんは我に返ったように私から顔を離した。
「……もう寝ろ」
 彼は私から目を逸らして少しぶっきら棒に言い、足早に部屋を出ていった。
 先程までの酔いは武尊さんのキスですっかり覚めてしまった。
「キス……しちゃった……」
 ベッドの上で仰向けになったまま呟き、そっと唇に触れながら初めてのキスの余韻に浸る。
 ひっそりと心を寄せる武尊さんとキスをして嬉しいと思う反面、複雑な感情も湧き上がってくる。
 彼には愛する人がいて、私は彼に愛されているわけではないのだ。
 武尊さんが私にキスしたのは雰囲気に流されたからで、私に特別な感情があるからではない。
 お互いの利害関係の一致で始まった私達の関係。互いを利用するために私たちは一緒に暮らしている。
それなのに彼に『好き』だと気持ちを伝えてしまえば、契約違反だと離婚を切り出されてしまうかもしれない。
私は武尊さんが好きだ。
彼の気持ちを掴むことはできなかったとしても、武尊さんのそばにいたい。
「……っ」
 彼とキスをして嬉しいはずなのに、切ない感情も湧き上がり、涙が零れて耳の後ろに流れていく。
 溢れそうになる彼への熱い想いに蓋をするように、私は声を出さずに静かに涙を流し続けた。

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