【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
『うち、両親が亡くなっているんです。それで、今は私が親代わりになっているんです』
 話を聞くと、彼女は高校生の妹と祖母をひとりで支えて生活しているらしい。
『まだ若いのに、家族を背負って立つのは大変だな』
 彼女が苦労人であると知り、労うように言うと彼女は首を横に振ってにこりと笑った。
『確かに大変なことはたくさんありました。でも、今は妹と祖母の幸せが私の幸せになっているんです』
 その言葉には一切の淀みがなかった。強がっているわけではなく、彼女が本心で言っているのが伝わってきた。
 俺が今まで出会ってきた女性はみな、自分の損得ばかり考えて行動した。
 でも、彼女は違う。口先だけではなく献身的に家族を支えようとしている。話を聞けば聞くほど彼女の献身さが伝わってきて俺は感銘を受けた。
『また会えたらいいですね』
 別れ際、彼女は穏やかに言って去って行った。
彼女は仕事が休みの日に大福に会いに公園へやってくると言っていた。
俺は彼女に会うために仕事が休みの日は欠かさずあのベンチへ足を向けるようになった。
 その甲斐もあり、彼女と顔見知りになり言葉を交わす関係になった。
 彼女の名前は河合小春。専門学校を卒業後は近くの診療所で医療事務員として働いているらしい。
 さらに驚いたことに、そこは恩師の矢崎先生の診療所だった。
『矢崎先生は俺の恩師なんだ』
 この時、ようやく俺は医師であることを彼女に告げた。
 今までにも医師という肩書を名乗った瞬間、分かりやすく態度を変える女性は多かった。けれど、小春は『救急医! 素敵なお仕事ですね』と驚きこそしたが今までと同じように俺に接してくれた。
 彼女は俺を信頼し、家族の話を打ち明けてくれるようになった。
『両親が早くに亡くなって、妹の若菜はたくさんの我慢をしてきました。だから、高校卒業後は若菜の望む進路に進んで欲しいと思っているんです。でも、学費のことを考えて就職しようと考えているみたいで……』
 たくさんの我慢をしてきたのは、姉の小春だって同じだろう。自分を犠牲にしてでも家族の幸せを願う健気な彼女に胸を打たれる。
 言葉を交わせば交わすほど、彼女には打算がなく誠実な人柄であることが伝わってくる。
 小春の純粋さと強さに今まで自分が抱いていた『女性は面倒』だという価値観が揺らぐ。
 何度も会ううちに彼女のような女性もいるのだと心が動き、『彼女を守りたい』『もっと知りたい』という気持ちが芽生えるようになった。
 とはいえ、彼女にとって俺との会話は退屈だろう。寡黙で冗談のひとつも言えないような男だ。
 それでも自分なりに彼女との距離を近付けるべく信頼を積み重ねていこうとしていた矢先、彼女にこう言われた。
『氷室さんと一緒にいるとすごく楽しいです』
 少し照れたように微笑む彼女に心臓を撃ち抜かれた。
『……俺もだ。河合さんと一緒にいると楽しい』
 目が合うと彼女は恥ずかしそうに目を逸らして、膝の上で眠る大福の頭を撫でた。
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