【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
 もう公園で短時間言葉を交わすだけでは足りなくなっていた。それに、公園にやってきても毎回彼女と会えるとは限らない。
 彼女へ告白しようと決め、『俺、河合さんのことが――』と言いかけた時、病院からの呼び出しがあった。
 仕方なく俺は『来週の日曜日、食事に行かないか? 君に伝えたいことがある』と小春を誘った。
 場所は公園からほど近いイタリアンの店に決めた。
車で彼女を迎えに行き遠出をすることも考えたが、公園で何回か言葉を交わしただけの男の車に乗るのは抵抗があるだろうと、歩いていける場所にした。
断られるのも覚悟していたが、『はい』と小春は少し照れくさそうにはにかんだ。
 その時の彼女の顔を俺は今もよく覚えている。
 当日、あらかじめ伝えていた待ち合わせ場所に向かっている時、それは起こった。
 反対側の歩道を歩く彼女を見つけて声を掛けようとした瞬間。
 ハンドル操作を誤ったのか、白い軽自動車が歩道を歩く小春めがけて突っ込んでいったのだ。ドンッという衝撃音に心臓がドクンッドクンッと激しい音を立てた。
『河合さん!』
 叫びながら彼女の元へ駆けていくと、青白い顔をした小春が頭から血を流して倒れていた。
 幸いにもわずかに意識はあり、俺の呼びかけに反応を示した。
『ごめん、俺のせいで……』
 俺が食事に誘ったりしなければ彼女をこんな目に合わせることはなかったのだと心から悔やみ、申し訳なさが湧き上がってくる。
 けれど、嘆いてばかりはいられないとすぐに冷静さを取り戻し『君は俺が必ず助ける』と告げた。
 車から慌てて降りてきた運転手にケガがないと分かり、俺はすぐに救急車の手配を頼んだ。
 彼女の頭をタオルで圧迫止血をしつつ、意識レベルを確認するために何度も声をかける。
けれど、彼女は目を瞑ったまま反応を示さなくなった。頭部のケガ以外に骨折などがないか素早く全身をチェックしつつ、手首に手を当てて脈拍を測る。
けれど、橈骨では触れず、喉に指を押し当てて頸動脈を探る。
 程なくして救急車が到着した。
『こっちだ!』
 救急隊員がストレッチャーを押して駆け寄ってくる。
『二十代女性、歩行中に車に撥ねられた。頭部に切傷。ショック症状あり、頸動脈で触れた感じ血圧80以下。頭を打っている可能性があるから、移乗は慎重に』
『あなたは?』
『救急医の氷室です』
 それから彼女は俺の働く御門救急病院へ搬送された。
 彼女の容態が気になり担当した医師に話を聞くと命に別状はないが、ショックのせいか事故前後の記憶が曖昧になっていると聞かされた。
 どうやらなぜあの場所を歩いていたのかも全く覚えていないのだという。
 事故で記憶を失くすことは稀に起こる。
脳の物理的な損傷ではなく、精神的なショックから心を守るための防衛反応が起こり記憶を封印するのだ。
 人間誰しも唐突な事故に遭遇すれば、自分でも気付かぬうちに心に深い傷を負う。小春だって例外ではない。
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