【執着兄弟の溺愛シリーズ】エリート救急医は契約結婚した妻を極上の執着愛で囲い込む
「――小春!」
 誰かが私の名前を叫んだ。ハッとして視線を向けると、暗闇の中から人影がこちらに向かって駆け寄ってくる。
降り注ぐ雨音を切り裂くように、バシャバシャと水たまりを激しく蹴り上げる音が響く。
「武尊……さん……?」
 傘も差さずに必死にこちらへ駆けてくるのは、武尊さんだった。
「小春!」
武尊さんは余裕のない声で私の名前を呼び、長い腕を伸ばして私の体を引き寄せた。
髪はシャワーを浴びたかのように濡れ、高価なジャケットは水を吸い色が変わっている。
耳元で感じる熱い吐息。彼が刻む力強い鼓動を布越しに感じる。
ギュッと力強く抱きしめられた瞬間、おぼろげな記憶が一気に鮮明になった。
そういえば、あの事故の日も今みたいに雨が降っていた。キキィーッという車のブレーキ音の後、私は地面に倒れていた。
あの時、アスファルトからは今みたいに湿った雨の匂いがした。
『河合さん!』と私の名前を呼んだその声が『小春!』と叫んだ武尊さんの声と重なる。
 痛みでぼんやりとする意識の中、私の顔を覗き込んだあの男性は……。
「大丈夫か⁉ ケガは?」 
武尊さんは私の肩を掴み、息を切らして荒い呼吸のまま尋ねた。
 顔を覗き込んだ武尊さんとあの日の男性の顔がぴったりと重なり合う。
 そうか……。
 あの日、私を助けてくれたのは武尊さんだ。武尊さんだったんだ――。
「武尊さん……ごめんなさい……」
 プツリと緊張の糸が切れ、目から大粒の涙が溢れ出す。
「私……武尊さんからもらったネックレスを失くしてしまって……それで……」
「大丈夫だ。謝らなくていいから」
 武尊さんはすぐさま自分が着ていたジャケットを脱ぎ、迷いなく私の肩にかけた。
 雨の匂いに混じり、彼の体温とムスクのような甘い香りがして心が落ち着く。
「事情は分かってる。で、山田さん。どうして前のアパートのオーナーのあなたがここに? こんな時間に私の妻に一体何の用が?」
 武尊さんは私を自分の背中に隠すと、山田さんに向き合った。その声は怒りに震えている。
山田さんは気まずそうに視線を宙に漂わせる。
「いや、それは……」
 武尊さんの登場が予想外だったのか先程までとは一転し、弱腰になる山田さん。
「彼女が俺と結婚する前から待ち伏せ行為をしていたな? 無言電話や差出人不明の手紙もお前の仕業だ」
 武尊さんは山田さんが犯人だと断定している口調だった。スマホを取り出すと、何の迷いもなくその場で警察へ通報した。
「大丈夫だ。今から警察が来る」
 武尊さんが私に告げたのを聞いた山田さんは驚いたように声を上げた。
「お、おい! 待ってくれよ。僕は何もしていない! 証拠もないくせに偉そうなことを言うな! 逆に訴えることもできるんだぞ!」
 山田さんが顔を赤く染めて激高するも、武尊さんは一切揺るがない。
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