あの夏、君だけを見ていた

13話 紬ちゃん

「つーむぎちゃん!」
「……って呼んだら、怒る?」
お昼休み、ふざけて朝比奈さんに声を掛ける。

「怒んないよ、皆 下の名前で呼ぶし」
花が開くみたいに笑うの、可愛くてずるくない?

「じゃあ紬ちゃんって呼ぼっと」
「紬ちゃん、実技どこまでいった?」

「さっきクランクやって、脱輪しまくった」
「……免許取るの、無理かも」
分かりやすくしょんぼりする紬ちゃんが可愛い。
……え、可愛い。え、大丈夫だよ、大丈夫。

「大丈夫でしょ、俺クランクとかここで初めて見たもん」
「教習所以外で見たこと無いっしょ」

「そうかな。……でもクランクできないと仮免取れないし」

口を尖らせて反論してくる。
……あれ、やばい、紬ちゃん、こんな可愛かった?

「大丈夫大丈夫。頑張ろ」
ごめん、ちょっと溶けてる、とチョコレートをあげる。

「そんなに餌付けしないでよ」
「でもありがと」

「なんか、紬ちゃん可愛いから、あげたくなっちゃうんだよね」

びっくりして紬ちゃんが顔を上げるけど、俺は知らないふり。
可愛いとか、誰にでも言えちゃう男のふり。

「紬ちゃん彼氏と会えなくて寂しくないのー?」

こんな可愛い彼女を日本に残してさ、何してんの?彼氏さん。

「寂しいよ」
小さな声で言った紬ちゃんが、本当に寂しそうだった。

「ふーん。彼女寂しがらせて、悪い男だね」

「悪い男じゃないし」
「……そういう海斗くんこそ、彼女いないの?」
「海斗くん、モテそう」

少しムッとしたような顔で言い返してくる。

「それがそうでもないんだよねー!絶賛募集中」
俺のことが気になる女の子はこちらまで、とふざけてジェスチャーをする。

「へえー、意外」

「……特に好きな女の子には、モテなくて」
「今も、その子めっちゃ鈍感で俺の気持ち気付いてくれない」

……目の前の子に、言ってます。

「そうなの?」
「アプローチが足りないんじゃない?」
笑ってからかってくる紬ちゃん。

「えーそうなのかな」
「じゃあ、紬ちゃんだったら何されたら意識する?」

「うーん、なんだろ」
「同じ場所でよく会うとか?」
「あ!たまたま帰り一緒になったりとか」

ねえ、何それ。……そんなん、俺のことじゃん。

「へえ、じゃあ俺のこと、意識してる?」

きょとんとした紬ちゃんの顔、忘れられないと思う。
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