あの夏、君だけを見ていた

9話 隣

「海斗くんはどこで降りるの?」
駅に着くと朝比奈さんに聞かれる。

「緑ヶ丘で乗り換え」

「そっか、じゃあ急行でいいね」
「私も今日は渋谷まで行くんだけど、普段は桜台だから各駅じゃないと停まらなくて」

「たまにぼーっとしてて、来たやつ確認しないで乗っちゃうんだよね」

「そうなの!こないだも通り過ぎちゃってさ」
「通り過ぎて戻るとき、ほんとに悔しい」

そう言って、ほんとに悔しそうな顔をするから面白い。
最初は大人しい子だと思ったのに、朝比奈さんは案外色んな表情をする。

もっと色んな顔が見たい。
……いや、彼氏がいる子に、俺、今なんて。

「やった!空いてる!座れるよー」

……隣に座ってもいいんだろうか。
座るのを少し迷うと、不思議そうにこっちを見た朝比奈さんが
「あ、ごめん」と少しだけ隣の座席にはみ出していたリュックの紐をしまう。

それ、気にしたわけじゃないんだけど。
あーあ、俺、全然男として見られてないんだなー!

少し笑いながら隣に座る。

「なに?なに、一人で笑ってんの?」
「私、なんか変?」

「ううん、なんでもない」

……ちょっとくらい、一人で悩んでろ。
朝比奈さんに思ったつもりが、ブーメランだった。
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