私を振った同級生ドクターの距離が近すぎます!〜もしかして、私のこと好きですか〜

19 嘘はこの手で暴く


私は鳴海くんを我聞に託し、自宅へ戻った。
クローゼットを勢いよく開ける。
棚の左端に押し込んだ、私の黒歴史。

二度と開けることはないと思っていたが、処分を先延ばしにしていたのが幸いした。何重にも縛った袋の紐を解く。

中には私と東十条先生のツーショット写真。そして、彼自らが残した証拠たちが眠っている。私は袋の奥へ手を伸ばし、それらを拾い上げた。

あの男を仕留めるアイテムは手にした。
私が鳴海くんを助ける。
そのためなら、何だってやる。



翌日、午前九時。
外来患者が溢れるエントランスで、私は聖三愛病院を見上げていた。白亜の壁にステンドグラスが映える洋風建築。大好きだった古巣。こんな形で戻るのは本意ではないが、迷いはない。

「よしっ」と小さく気合を入れ、自動扉を抜けた。

南新館二階、産婦人科外来。火曜午前の担当は「東十条誠」。
診察開始を過ぎても、彼は現れない。待たされた患者の苛立ちを余所に、彼はランウェイを歩くモデルのように優雅に登場した。

ここに立つとあの日が蘇る。乗り込んできた東十条先生の婚約者。待合室で写真をばら撒かれ、罵声を浴びせられた私。

「サイテー!」「自覚しなさいよ!」

身に覚えのない罪を着せられ、捏造された写真が宙を舞う。
驚きに口を覆う人、「こんな看護師がいる病院で産みたくない」と眉をひそめる妊婦さん……。

不条理に屈したくはなかった。けれど、殺到するクレームに心が折れた。何より、不安にさせてしまった妊婦さんに安心して出産に臨んでほしかった。「辞める」のが最善だと信じていた。

でも、私は間違っていた。

そのせいで鳴海くんを巻き込み、謹慎に追い込んでしまった。だから、私は東十条先生を許さない。

今日はそのリベンジだ。
真実を突き付け、謝罪していただきます!



「……頭が割れる」
最悪の二日酔いだ。見知らぬ天井。野球やバスケのグッズが飾られた、見慣れた風景。

我聞の部屋か。

昨晩、酒を煽って我聞にくだを巻いていたのは覚えている。
だが、眠りに落ちる直前の、あの幸福な感触は何だ? ふわっと温かく、「好きだな」と思いながら微睡んだ。相手が我聞なら地獄だが、凄まじい違和感が残っている。

朝の陽射しに顔を顰め部屋を出た。リビングでは我聞がソファで天気予報を見ていた。

「すまなかった、そのまま寝ちゃったな」
「気にすんな。それより今日も待機か?」
スマホを確認するが、病院からの連絡はない。当然だ、あいつの嘘を暴く手段がないのだから。

「家に帰るよ」
「送るよ。その前に、そこのイオン水飲め。萌奈が、俺と入れ替わって話を聞いてくれたんだよ」

イオン水を落としそうになった。記憶のない時間に、藤川と?
「俺は、藤川と……一緒だったのか?」
あの幸福な感触――あれは彼女だったのか。
急に頬が熱くなる。

「藤川は……どこだ」
「……何か用事があるみたいだったな」
我聞が目を逸らした。
白々しい、何かを隠している時の反応だ。
「おい、我聞、正直に言え。藤川はどこにいるんだ」
鋭い視線で睨みを利かせる。
「俺は、止めたんだけど……」
「だけど?」
俺は我聞の前に立ちはだかる。

「……東十条を、殴ってくるって……」

「……は?」

二日酔いの聞き違いかと思った。

「萌奈が、あいつを切れるカードを持ってると。一人で行っちまったんだよ」

「アホ! 一人で行かせる奴があるか! 車を貸せ、連れ戻す!」
キーを探す俺を、我聞が制した。
「待て、俺が送る。……その代わり、真実を知っても俺の口は縫うなよ?」

「実は……卒業式の日、俺は伝え忘れたんだ。蒼真が体育館裏で待ってること」

俺の走り出そうとした足が止まる。
「……………………」
十数年前の話だと笑える余裕はない。俺の人生で最も辛い記憶だ。

「萌奈も蒼真が好きだったんだ。あの時告白できていたら、こんなことにはならなかった。昨日も部屋でお互いに“好きだ好きだ”って言い合ってたぞ」

「……俺が、彼女に、好きだと言っていた?」
酒で本音が漏れたらしい。
「何度も言ってたぜ。聞いてるこっちが恥ずかしいくらいにな」

とんでもない事実を知った。俺たちは、ずっと両想いだったのか。
本来なら狂喜乱舞すべき事実!
しかし、その彼女が今、一人で東十条の元へ向かっている。

(今すぐに、助けに行かなければ!)

「優先すべきは藤川の救出だ。行くぞ!」

俺は我聞を引き連れ、聖三愛病院へと急行した。

藤川。お前はいつもそうだ。
自分一人で抱え込んで、自分一人で片付けようとする。
でも、もうお前を一人にはさせない。
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