私を振った同級生ドクターの距離が近すぎます!〜もしかして、私のこと好きですか〜

22 解禁された独占欲

「鳴海! 復帰おめでとう!」

白衣に着替えた鳴海くんが病棟に現れると、三宮先生が破顔して出迎えた。看護師たちも次々と集まってくる。私は勤務室の影から、その光景を静かに見守っていた。

「ご心配をおかけしました」
鳴海くんは神妙な面持ちで、スタッフ一人ひとりに丁寧に頭を下げる。

「鳴海先生が暴力なんて、誰も信じていなかったわよ。誤解が解けて本当によかった」
北田師長が、慈愛に満ちた笑顔を向けた。

「不徳の致すところです。皆様にはご迷惑をおかけしました」
「無事に復帰できて、一同心から安堵していますよ」
市川主任が、いつになく柔らかな微笑みを浮かべて鳴海くんの前に立った。そして、
「はい、これ。鳴海先生」
「……これは?」
手渡された分厚い用紙の束を、彼は怪訝そうにめくってゆく。

「看護師から鳴海先生への《指示書》です」
「指示書……?」
「たった一日の不在で、病棟は大混乱だったんです。先生がいつ戻ってもいいように、やるべきことを箇条書きにまとめておきましたから」
主任はいつもの腕組みスタイルで、挑戦的に顎を引いた。

「一日で、こんなに溜まるものなんですね……」
鳴海くんの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。

「早速ですが、十四時のオペ前ICは予定通りセッティング済みです。ご準備、よろしくお願いしますね!」
「えっ、あと三十分!?」
慌てて時計を確認する鳴海くんに、追い打ちをかけるように三宮先生がニヤリと笑った。

「鳴海、これが今週の勤務表だ。一部変更しておいたぞ」
渡された中身を見た瞬間、鳴海くんの顔にサッと縦線が入った。地獄のような過密シフトなのだろう。

「あれ、藤川さん? こんな時間に私服でどうしたの?」
背後から大久保さんに声をかけられ、私は慌てて取り繕った。
「えっと……今月の勤務表を、ついもらい忘れちゃって」

「もう半ばですよ? 私が取ってきますね!」
大久保さんは快活に笑い、勤務室へ走った。戻ってくると、鳴海くんの方を見て声を弾ませた。
「先生、復帰しましたね! 藤川さんもずっと心配してましたもんね」
「ええ、本当によかったわ」

心からそう思った。鳴海くんはこの病棟にとって、代わりのきかない不可欠な存在なのだ。彼が医師としての道を守り抜けたことに、私は深い安堵を覚えた。

帰ろうと廊下の角を曲がった瞬間、リネン室の陰から伸びてきた腕に引かれ、戸を閉められた。

「……鳴海くん?」
彼はあからさまに拗ねた顔をして、三宮先生に渡された勤務表を俺に突きつけた。
「見て。これ、死のシフトだよ」
子供のように唇を尖らせる姿に、私は思わずのぞき込んだ。当直の回数が、明らかに異常だ。

「休んだ分のしわ寄せが、後半にきちゃったのね……」
「せっかく藤川とゆっくり過ごせると思っていたのに!」

……ふてくされている理由は、そこだったの?
私は驚きと、それ以上の喜びで胸がいっぱいになった。

「焦らなくても、いつでも会えるんだから……」
「藤川は、なんでそんなに平気なの?」
心外だと言いたげな瞳が、私を射抜く。

「……え?」
「十三年越しで、ようやく両想いになれたんだよ。やりたいこと、山ほどあるでしょう」

大人の男性としての熱い眼差しに、頬が火照る。
この人、こんなに積極的な人だったっけ……?

「……うん。でも、もう安心して待てるから」
「土曜日は、絶対に空けておいて」
有無を言わせぬ命令口調。それが、今の私にはたまらなく愛おしい。

「……わかった。お互い休みだね。必ず会おう」
「俺の家に来て」
腰に手が回され、ぐっと距離が縮まる。好きな人からの熱烈な誘いが、脳を甘く痺れさせた。

「わかったから。でも、今は職場だよ」
たしなめると、彼はぱっと手を離した。
「わかった。今は我慢する。……でも、土曜日は我慢しない」

まっすぐな瞳が、私を強く求めているのがわかった。昨日までの迷いが嘘のようなアプローチに、頭が混乱し、顔が真っ赤に染まる。

「……それで、いいと思うよ」
恥ずかしさで目を逸らすのが精一杯だった。

「よし、約束だ」
「うん。今週もお互い、仕事を頑張ろうね」
「やる気が出た。さっそく仕事に行ってくる!」

意気揚々とリネン庫を出ようとした彼が、不意に足を止めた。
「あ、そうだ」
振り返りざまに、彼は私の頬に唇を寄せた。

「土曜日までのエネルギー、チャージ完了!」

彼らしからぬ台詞を残し、鳴海くんは足早に去っていった。私は熱を帯びた頬を両手で覆い、一人呆然と立ち尽くす。

本当に、あの鳴海くんなの?
私、こんなに愛されていたの?

この十三年間、彼の中に静かに降り積もっていた愛情の深さを肌で感じて、私は世界で一番の幸せに包まれていた。
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