私を振った同級生ドクターの距離が近すぎます!〜もしかして、私のこと好きですか〜
23 十三年目の放課後、遠回りの終着地
土曜日。
雲一つない晴天。気持ちの良い神無月の空の下、私と鳴海くん、そして我聞の三人は、母校の中学校の下駄箱前に立っていた。
「一生のお願いだ。俺の罪を償わせてくれ。このままだと死んでも成仏できねえ」
二日前、我聞が必死の形相で訴えてきた「心残り」。それは、あの卒業式の日に起きた出来事だという。
我聞は一足先に来て、タイムカプセルを掘り起こしていた。手も顔も土に汚れた彼の足元には、錆びたステンレスの箱が置かれている。
「我聞、これを掘り出すために呼び出したの?」
「ちがう。もっと大事な、卒業式の『やり直し』だ」
我聞がいきなり土下座せんばかりに頭を下げた。
「蒼真、萌奈、本当にごめん! 頼む、あの日、お前らがすれ違った時間を、今ここでやり直してくれ!」
困惑する鳴海くんを余所に、我聞はカプセルの中から「ある物」を取り出し、私に見えないよう鳴海くんの手の中に握らせた。
「蒼真、早く体育館裏へ行け。あの日と同じように待ってろ」
「……茶番だ」
頬を紅潮させ、憤慨しながらもしぶしぶ移動する鳴海くん。私は残った我聞に、ずっと気になっていたことを問いかけた。
「鳴海くんが呼び出した子……誰だったの?」
我聞は、何を今更という顔で私を見た。
「萌奈だよ。ずっと、お前だけだったんだ」
頭の中が真っ白になった。
「……え? 私? でもあの日、伝言なんて……」
「俺が忘れてたんだ。タイムカプセルのことで頭いっぱいでさ。お前に『体育館裏へ来てくれ』って伝えるのを、すっかり。……悪かったな」
怒りと、呆れと、何より切なさが一気に押し寄せた。
「……それ、ひどくない? 私、失恋したと思ってずっと悲しかったんだから!」
「だからこうして『軌道修正』の場を作ったんだろ。ほら、行ってこい。幸せになれよ」
仏のような顔で送り出す我聞に毒気を抜かれ、私は鳴海くんが待つ体育館裏へと足を向けた。大人になった今、どんな顔をして「呼び出し」に応じればいいのか。15歳の頃の鼓動が、今さら激しく胸を叩く。
角を曲がると、鳴海くんが所在なげにそわそわと立っていた。目が合うと、彼は驚いたように、そして救われたように笑った。
「……今回は、来てくれたんだな」
「我聞から聞いた。あの日、伝言を忘れちゃったんだって。私、何も知らなくて、そのまま帰っちゃったの」
いい大人なのに、距離感の測り方がわからない。まるで中学生に戻ったみたいだ。
鳴海くんは、校門へ続く道を見つめた。
「あの日、ここから藤川が友達と笑って帰るのが見えて……俺、フラれたんだって絶望してたんだ」
そして彼は歩み寄り、握りしめていた右手を差し出した。掌の上で転がったのは、制服の第二ボタン。
「13年越しだけど……これ、受け取ってくれる?」
「……もちろん」
握りしめたボタンの感触が、甘酸っぱい記憶を鮮やかに繋いでいく。
「藤川、好きだ。ずっと、好きでした」
15歳の時に聞きたかった、混じり気のない言葉。
「私も……鳴海くんが好き。ずっと、大好きだったよ」
抱き寄せられた胸の温もりに、涙がこぼれそうになる。
「あの日も考えてた。告白がうまくいったら、キスくらいしてもいいのかなって」
「……それ、今言うの?」
「そうだよね。……じゃあ、してもいい?」
「……うん。してほしい」
触れ合った唇の柔らかさが、13年の空白をすべて幸福感で塗り替えた。
「……鳴海くん、いつも遠回りして帰ってくれてたよね。本当は大通りの方が早いのに」
彼の胸に顔を埋めたまま、からかうように呟くと、鳴海くんが不敵に口角を上げた。
「……それを言うなら、藤川もだろ?」
「え?」
「裏門から出れば家まで数十秒なのに。わざわざ遠回りして、俺と同じ左の道を選んでた」
心臓が跳ねた。誰にも知られていないはずの、私の秘密。
「な、なんで知ってるの……」
「我聞から聞いてた。『藤川はわざわざ遠回りして帰るんだぜ』って。……お互い、バレバレだったんだな」
誇らしげに笑う鳴海くんの顔が、愛おしくてたまらない。まさか両想いの「遠回り」まで共有していたなんて。
「そういうところが、最高に可愛いと思ってた!」
再び引き寄せられた腰に、熱い体温が走る。
二人の想いが重なり合う、深く、溺れるようなキスを交わした。
13年前のあの日、本当は始まるはずだった恋。
遠回りした時間は、無駄じゃなかった。
今、この温もりを感じるために、私たちはあの道を歩んできたのだから。
雲一つない晴天。気持ちの良い神無月の空の下、私と鳴海くん、そして我聞の三人は、母校の中学校の下駄箱前に立っていた。
「一生のお願いだ。俺の罪を償わせてくれ。このままだと死んでも成仏できねえ」
二日前、我聞が必死の形相で訴えてきた「心残り」。それは、あの卒業式の日に起きた出来事だという。
我聞は一足先に来て、タイムカプセルを掘り起こしていた。手も顔も土に汚れた彼の足元には、錆びたステンレスの箱が置かれている。
「我聞、これを掘り出すために呼び出したの?」
「ちがう。もっと大事な、卒業式の『やり直し』だ」
我聞がいきなり土下座せんばかりに頭を下げた。
「蒼真、萌奈、本当にごめん! 頼む、あの日、お前らがすれ違った時間を、今ここでやり直してくれ!」
困惑する鳴海くんを余所に、我聞はカプセルの中から「ある物」を取り出し、私に見えないよう鳴海くんの手の中に握らせた。
「蒼真、早く体育館裏へ行け。あの日と同じように待ってろ」
「……茶番だ」
頬を紅潮させ、憤慨しながらもしぶしぶ移動する鳴海くん。私は残った我聞に、ずっと気になっていたことを問いかけた。
「鳴海くんが呼び出した子……誰だったの?」
我聞は、何を今更という顔で私を見た。
「萌奈だよ。ずっと、お前だけだったんだ」
頭の中が真っ白になった。
「……え? 私? でもあの日、伝言なんて……」
「俺が忘れてたんだ。タイムカプセルのことで頭いっぱいでさ。お前に『体育館裏へ来てくれ』って伝えるのを、すっかり。……悪かったな」
怒りと、呆れと、何より切なさが一気に押し寄せた。
「……それ、ひどくない? 私、失恋したと思ってずっと悲しかったんだから!」
「だからこうして『軌道修正』の場を作ったんだろ。ほら、行ってこい。幸せになれよ」
仏のような顔で送り出す我聞に毒気を抜かれ、私は鳴海くんが待つ体育館裏へと足を向けた。大人になった今、どんな顔をして「呼び出し」に応じればいいのか。15歳の頃の鼓動が、今さら激しく胸を叩く。
角を曲がると、鳴海くんが所在なげにそわそわと立っていた。目が合うと、彼は驚いたように、そして救われたように笑った。
「……今回は、来てくれたんだな」
「我聞から聞いた。あの日、伝言を忘れちゃったんだって。私、何も知らなくて、そのまま帰っちゃったの」
いい大人なのに、距離感の測り方がわからない。まるで中学生に戻ったみたいだ。
鳴海くんは、校門へ続く道を見つめた。
「あの日、ここから藤川が友達と笑って帰るのが見えて……俺、フラれたんだって絶望してたんだ」
そして彼は歩み寄り、握りしめていた右手を差し出した。掌の上で転がったのは、制服の第二ボタン。
「13年越しだけど……これ、受け取ってくれる?」
「……もちろん」
握りしめたボタンの感触が、甘酸っぱい記憶を鮮やかに繋いでいく。
「藤川、好きだ。ずっと、好きでした」
15歳の時に聞きたかった、混じり気のない言葉。
「私も……鳴海くんが好き。ずっと、大好きだったよ」
抱き寄せられた胸の温もりに、涙がこぼれそうになる。
「あの日も考えてた。告白がうまくいったら、キスくらいしてもいいのかなって」
「……それ、今言うの?」
「そうだよね。……じゃあ、してもいい?」
「……うん。してほしい」
触れ合った唇の柔らかさが、13年の空白をすべて幸福感で塗り替えた。
「……鳴海くん、いつも遠回りして帰ってくれてたよね。本当は大通りの方が早いのに」
彼の胸に顔を埋めたまま、からかうように呟くと、鳴海くんが不敵に口角を上げた。
「……それを言うなら、藤川もだろ?」
「え?」
「裏門から出れば家まで数十秒なのに。わざわざ遠回りして、俺と同じ左の道を選んでた」
心臓が跳ねた。誰にも知られていないはずの、私の秘密。
「な、なんで知ってるの……」
「我聞から聞いてた。『藤川はわざわざ遠回りして帰るんだぜ』って。……お互い、バレバレだったんだな」
誇らしげに笑う鳴海くんの顔が、愛おしくてたまらない。まさか両想いの「遠回り」まで共有していたなんて。
「そういうところが、最高に可愛いと思ってた!」
再び引き寄せられた腰に、熱い体温が走る。
二人の想いが重なり合う、深く、溺れるようなキスを交わした。
13年前のあの日、本当は始まるはずだった恋。
遠回りした時間は、無駄じゃなかった。
今、この温もりを感じるために、私たちはあの道を歩んできたのだから。