君と終わった街で
スマホの明かりだけが、暗い部屋をぼんやり照らしている。

洸太はソファに深く座ったまま、小さく息を吐いた。

昔からそうだった。

文姫は時々、洸太が一番欲しい言葉を、何でもない顔で言う。

だから困る。

期待しそうになるから。

高校の頃も、そうやって何度も勘違いしそうになって。

そのたびに、自分で勝手に傷ついていた。

でも今は、あの頃みたいに感情を暴走させたくなかった。

せっかくまた話せるようになったのに。

今度こそ、ちゃんと向き合いたかった。

洸太はスマホを見つめながら、少し迷ってから打ち込む。

『文姫は変わった』

送信。

数秒後、既読。

『どこが』

洸太は少し考える。

すぐには言葉が出てこなかった。

喫茶店で笑っていた文姫。

雨上がりの交差点。

昔と変わらない笑い方。

でも、確かに何かは違っていた。

『ちゃんと大人になってた』

送ったあと、自分でも曖昧だなと思う。

でも、それが一番近かった。

少し間が空く。

そして。

『なにそれ』

『自分は?』

洸太は苦笑する。

『俺も一応大人にはなった』

『高校の時よりめんどくさくなくなったと思う』

その瞬間、すぐ既読がついた。

『それは本当にそう』

思わず吹き出す。

『ひど』

『でも今の方が話しやすい』

その一文に、洸太の指が止まる。

静かな部屋。

外では風が吹いている音がする。

『俺もそう思う』

送る。

それだけなのに、胸の奥が少し熱かった。

昔は、文姫と話すたび苦しかった。

好きになりすぎていたから。

“もっと”を欲しがってしまっていたから。

でも今は違う。

文姫が笑ってくれるだけでいい。

こうして普通に話せるだけで嬉しい。

本気で、そう思えていた。
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