君と終わった街で
静かな部屋に、雨音だけが広がっていく。
文姫は動けなかった。
スマホの画面に表示された文字を、ただ見つめる。
『昨日のキス、忘れてないですよね?』
昨日。
キス。
その言葉だけが、頭の中で何度も繰り返される。
胸の奥が、ゆっくり冷えていった。
さっきまであんなに楽しかったのに。
洸太と並んで歩いて。
笑って。
高校生みたいにはしゃいで。
自分は、完全に浮かれていた。
その事実が急に恥ずかしくなる。
文姫はゆっくり視線を落とした。
自分は何を期待していたんだろう。
洸太に好きだと言われたわけじゃない。
付き合っているわけでもない。
それなのに。
別の女の人の存在を感じただけで、こんなに苦しい。
その時。
玄関のドアが開く音がした。
文姫の肩が小さく揺れる。
「ごめん、雨降ってきてた」
洸太がコンビニ袋を持って入ってくる。
そのいつも通りの声が、今はやけに遠かった。
洸太はすぐに異変に気づいたみたいだった。
「……文姫?」
文姫は立ち上がる。
「ごめん、やっぱ帰る」
声が少し震えていた。
洸太が目を丸くする。
「え?」
「なんか……急に疲れた」
下手な嘘だと、自分でも分かった。
でも、この部屋にいたら駄目だった。
あのLINEのことを考えてしまう。
知らない女の人。
昨日のキス。
その言葉が、胸の中をぐちゃぐちゃにしていく。
洸太は袋を置きながら近づいてくる。
「待って、どうした?」
文姫は首を振る。
「ほんと大丈夫だから」
「大丈夫な顔してない」
その言葉が、余計につらかった。
優しくしないでほしいと思う。
期待してしまうから。
文姫はバッグを掴んで玄関へ向かう。
その瞬間。
後ろから腕を軽く掴まれた。
「文姫、待っ――」
反射だった。
文姫は咄嗟に、その手を振り払う。
空気が止まる。
洸太の表情が固まった。
文姫自身も、自分の行動に息が詰まる。
違う。
怖かったわけじゃない。
でも身体が勝手に動いた。
昔の記憶が、一瞬だけ蘇ったせいで。
文姫は唇を噛む。
「……ごめん」
小さく零して、そのまま玄関を飛び出した。
外は、もう大雨だった。
冷たい雨が、一瞬で身体を濡らしていく。
でも止まれない。
洸太の顔を見るのが、今は苦しかった。
雨の中を走りながら、文姫は思う。
――自分は、洸太のことが好きなんだ。
認めた瞬間。
胸が、どうしようもなく痛かった。
文姫は動けなかった。
スマホの画面に表示された文字を、ただ見つめる。
『昨日のキス、忘れてないですよね?』
昨日。
キス。
その言葉だけが、頭の中で何度も繰り返される。
胸の奥が、ゆっくり冷えていった。
さっきまであんなに楽しかったのに。
洸太と並んで歩いて。
笑って。
高校生みたいにはしゃいで。
自分は、完全に浮かれていた。
その事実が急に恥ずかしくなる。
文姫はゆっくり視線を落とした。
自分は何を期待していたんだろう。
洸太に好きだと言われたわけじゃない。
付き合っているわけでもない。
それなのに。
別の女の人の存在を感じただけで、こんなに苦しい。
その時。
玄関のドアが開く音がした。
文姫の肩が小さく揺れる。
「ごめん、雨降ってきてた」
洸太がコンビニ袋を持って入ってくる。
そのいつも通りの声が、今はやけに遠かった。
洸太はすぐに異変に気づいたみたいだった。
「……文姫?」
文姫は立ち上がる。
「ごめん、やっぱ帰る」
声が少し震えていた。
洸太が目を丸くする。
「え?」
「なんか……急に疲れた」
下手な嘘だと、自分でも分かった。
でも、この部屋にいたら駄目だった。
あのLINEのことを考えてしまう。
知らない女の人。
昨日のキス。
その言葉が、胸の中をぐちゃぐちゃにしていく。
洸太は袋を置きながら近づいてくる。
「待って、どうした?」
文姫は首を振る。
「ほんと大丈夫だから」
「大丈夫な顔してない」
その言葉が、余計につらかった。
優しくしないでほしいと思う。
期待してしまうから。
文姫はバッグを掴んで玄関へ向かう。
その瞬間。
後ろから腕を軽く掴まれた。
「文姫、待っ――」
反射だった。
文姫は咄嗟に、その手を振り払う。
空気が止まる。
洸太の表情が固まった。
文姫自身も、自分の行動に息が詰まる。
違う。
怖かったわけじゃない。
でも身体が勝手に動いた。
昔の記憶が、一瞬だけ蘇ったせいで。
文姫は唇を噛む。
「……ごめん」
小さく零して、そのまま玄関を飛び出した。
外は、もう大雨だった。
冷たい雨が、一瞬で身体を濡らしていく。
でも止まれない。
洸太の顔を見るのが、今は苦しかった。
雨の中を走りながら、文姫は思う。
――自分は、洸太のことが好きなんだ。
認めた瞬間。
胸が、どうしようもなく痛かった。