君と終わった街で
静かな部屋だった。

雨音も、もうほとんど聞こえない。

聞こえるのは、自分の心臓の音だけ。

洸太は文姫を見ている。

急かさない。

でも、逃げてもいない。

その目が、ずるいと思った。

高校の頃より、大人になっている。

ちゃんと待ってくれる。

ちゃんと文姫を見てくれる。

だから余計に、誤魔化せなくなる。

文姫はゆっくり視線を落とした。

「……私」

声が震える。

「昔、洸太のことちゃんと見れてなかった」

洸太は何も言わずに聞いている。

文姫は小さく息を吐く。

「好きって言われるの、怖かった」

「洸太の気持ち、真っ直ぐすぎて」

高校生だった自分には、それを受け止める勇気がなかった。

応えられないことも苦しくて。

だから逃げた。

でも。

「今は違う」

そこまで言って、文姫は少しだけ目を閉じる。

苦しいくらい、分かってしまう。

洸太といると安心する。

笑っていたいと思う。

他の女の人の存在に、あんなに傷ついた。

それがどういう意味なのか、もう分からないふりはできなかった。

文姫はゆっくり洸太を見る。

「昨日、あのLINE見た時」

声が小さく震える。

「苦しくて、嫌だった」

洸太の表情が少しだけ変わる。

文姫は唇を噛みながら続けた。

「洸太が誰かのものになるの、嫌だって思った」

言った瞬間。

顔が熱くなる。

熱のせいじゃない。

恥ずかしくて。

苦しくて。

でも、不思議と少しだけ楽になった。

洸太はしばらく黙っていた。

それから、ゆっくり息を吐いて。

小さく笑った。

その笑い方が、少し泣きそうに見える。

「……それ、期待していいやつ?」

文姫は胸がいっぱいで、すぐに言葉が出なかった。

でも。

逃げたくないと思った。

今度こそ。

ちゃんと向き合いたかった。

文姫は洸太の袖を掴んだまま、小さく頷く。

その瞬間。

洸太が、ゆっくり目を閉じた。
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