君と終わった街で
桃花は唇を噛む。

胸が苦しかった。

悔しくて。

でも同時に、納得してしまう。

自分が四年間好きだった人は、こういう人だから。

洸太は小さく視線を落とす。

それからスマホをもう一度開いた。

文姫からのLINE。

短い文章。

でも、その一文一文が胸へ刺さる。

『あなたをちゃんと見てくれる人がいるんだから、その子を大事にしてね』

洸太は小さく笑った。

でも、その笑い方は完全に無理をしていた。

「……文姫らしいな」

掠れた声だった。

洸太はスマホ画面を見たまま、静かに呟く。

「自分が傷つく方選ぶんだよな、あいつ」

その言葉に、桃花は顔を上げる。

洸太は少しだけ遠くを見るみたいな目をしていた。

「昔からそうだった」

「自分が我慢すれば丸く収まるって、本気で思ってる」

桃花は何も言えなかった。

文姫の最後の表情を思い出す。

どこか泣きそうなのに、無理して笑っていた顔。

「でもさ」

静かな声だった。

「それで俺が幸せになるかは、別なんだけどな」

その瞬間。

桃花の胸が、ぎゅっと締め付けられる。

分かってしまった。

この人は、きっともう駄目だ。

どれだけ傷ついても。

どれだけ振り回されても。

結局、堤文姫を好きでいる。

桃花はゆっくり視線を落とす。

悔しかった。

本当に。

自分の方が、ちゃんと好きでいられると思った。

ちゃんと幸せにできると思った。

でも。

この人が欲しいのは、自分じゃない。

桃花は震える息を吐く。

それでも。

簡単に諦められるほど、軽い気持ちじゃなかった。

だから桃花は、小さく口を開く。

「……先輩」

洸太が顔を上げる。

桃花は真っ直ぐその目を見る。

胸が痛い。

でも、逃げたくなかった。

「それでも私、まだ諦めません」

静かなオフィス。

誰もいない夜。

桃花の声だけが、静かに響いた。
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