君と終わった街で
文姫の頭が真っ白になる。

なんで。

どうしてここにいるの。

色んな言葉が浮かぶのに、口が動かない。

洸太は数歩こちらへ近づいた。

その目の下には薄く隈ができていた。

髪も少し乱れている。

ちゃんと寝てないんだと、すぐ分かった。

文姫は思わず視線を逸らす。

見ていられなかった。

洸太はそんな文姫を見ながら、苦しそうに笑う。

「……1週間」

文姫が顔を上げる。

洸太は小さく頷いた。

「1週間、毎日探した」

その言葉に、文姫の指先が震える。

洸太は続けた。

「家も知らない」

「職場も知らない」

「どこに住んでるかも分かんねぇ」

自嘲するみたいに笑う。

「なのに、好きになって」

その声が、痛いくらい真っ直ぐだった。

文姫の目に涙が滲む。

洸太はゆっくり文姫を見る。

「LINEだけだった」

「唯一繋がれるの」

「なのに全部無視されて」

少しだけ言葉が詰まる。

「……マジでキツかった」

文姫は唇を噛む。

苦しかった。

そんな顔をさせたいわけじゃなかった。

傷つけたかったわけじゃない。

でも。

自分じゃ駄目だと思ったから。

洸太にはもっとちゃんと、真っ直ぐ好きって言える人が必要だと思ったから。

文姫は震える声で言う。

「……桃花さん、すごく洸太のこと好きだった」

洸太の表情が少し止まる。

文姫は続ける。

「四年間、ずっと洸太見てて」

「ちゃんと幸せにしたいって言ってた」

涙が次々零れる。

「だから私なんかより……」

「文姫」

洸太が遮る。

強い声だった。

文姫が肩を揺らす。

洸太は真っ直ぐ文姫を見る。

「なんでお前が決めんの」

その言葉に、文姫の呼吸が止まる。

洸太はゆっくり近づく。

逃げ場がなくなるくらい近くで、文姫を見つめた。

「俺が誰といたいか」

「誰を好きか」

「なんで文姫が勝手に諦めてんだよ」

涙が止まらない。

文姫は首を振る。

「だって……」

「俺、十三年好きだったんだぞ」

洸太の声が少し震える。

「やっと会えて」

「やっと届いたと思ったのに」

その目が、あまりにも苦しそうで。

文姫はもう見ていられなかった。

「……ごめん」

絞り出すみたいに言う。

洸太は少しだけ俯いた。

それから。

静かに言った。

「謝ってほしいんじゃねぇよ」

夜風が吹き抜ける。

静かな住宅街。

二人の間だけ、時間が止まったみたいだった。

洸太はゆっくり文姫へ手を伸ばす。

でも触れる直前で止まる。

まるで、拒絶されるのが怖いみたいに。

その仕草だけで、文姫の胸はぐちゃぐちゃになる。

洸太は掠れた声で言った。

「……好きなら、逃げんなよ」
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