私の恋を探してください
「遅くに無理を言って、申し訳ありません。僕達、今、ヘルパーの勉強していまして。汐見さんのご厚意に甘えて、見学させていただきたく、お邪魔しました」
「――は、はあ……。じ、じゃあ、ここの面会者の欄に記入をお願いします……」
受付の人は、奥川さんに圧倒されたのか、呆けた表情でうなづくと、面会者の住所氏名を書く用紙を差し出した。
防犯などの関係で、面会の人間は把握しなくてはならないそうだ。
「あ、あのっ……時間も無いので、行きますね!」
そう言って、私は、記入を終えた奥川さんと千谷沢さんを手招きし、彼等は、素直についてきてくれた。
そして、廊下の突き当りを右に曲がった突き当り――そこが、おばあ様の部屋だ。
私は、軽くノックすると、そっとドアを開けた。
「おばあ様、遅くなり、申し訳ありません。琴子です」
「――ああ、いらっしゃい、琴ちゃ……」
ベッドの上で本を読んでいたおばあ様は、眼鏡を外しながらこちらを見やり、言葉が切れた。
「あ、あの……こちらは……」
「初めまして、遅くに申し訳ありません。僕等は、汐見さんの大学の先輩に当たります。僕が奥川、こちらが千谷沢です」
すると、おばあ様は、目を丸くして私を見やり――そして、ゆっくりとベッドを下りる。
「そうですか。琴子が大変お世話になっております。このような姿で申し訳ありません、祖母の富美子と申します」
そう言って、探偵二人に深々と頭を下げた。
二人は、気おされたように、お互いを見やる。
おばあ様は、身体は弱っていても、調子が良ければ通常通りに振る舞えるのだ。
「――いえ、琴子さんには、私達の方こそ、お世話になっておりますので」
千谷沢さんは、これまで見た事も無いような、穏やかでゆったりとした態度で、おばあ様に頭を下げた。
つけていたウィッグが落ちないか、一瞬、心配になってしまったが、大丈夫なようだ。
「琴ちゃん、大学でお知り合いができたようだね。おばあは、安心したよ」
「――う、うん」
合っているようで、微妙に合ってはいない――が、大まかに見れば合っているのか。
私は、少々ぎこちなくうなづいてしまった。
「――それで、お二人。このおばあに、聞きたい事があるんじゃないのですか?」
瞬間、空気が変わる。
「えっ、あ、いや、僕等は――」
奥川さんが、笑みを浮かべてごまかそうとしたが、私は、大きく息を吐くと、探偵二人を見やり首を振った。
――おばあ様には、隠し事はできない。
あきらめて、正直に言った方が、良いんじゃないか。
そう思った瞬間、私のバッグが大きく震えた。
「あ、す、すみません」
慌てて中からスマホを取り出すと――”着信、兄”。
私は、頭を下げて、通話ボタンを押した。
「――ハ、ハイ」
『今、何時だと思ってる!どこにいるんだ⁉』
「……す、すみません。……おばあ様のところです……」
『――は?お前、また――』
「あ、あのっ……すぐに帰りますので……」
すると、大きな舌打ちが聞こえ、思わず身をすくめた。
兄は、機嫌が悪いと、すぐにあからさまな態度を取る。
『オレが迎えにいかないとなのかよ』
「――……え、あ」
一瞬、答えに詰まる。
けれど、おばあ様に代わるようにジェスチャーをされ、スマホを手渡した。
「真人、おばあだよ。琴ちゃんには、タクシー呼んであるから、お前は来なくても一向に構わないよ」
電話の向こうで、何やら言っているようだが、すぐにおばあ様は私にスマホを返してくれた。
「も、もしもし……」
『ばあ様が言うなら、ちゃんと帰ってくるんだろうな』
「ハ、ハイ」
『じゃあ、さっさとタクシー使って帰って来い。――父さんが、機嫌悪くて、手に負えねぇんだからな』
「……ハイ……」
私は、うなづくと通話を終えて、スマホをバッグに片付けた。
そして、様子をうかがっている探偵二人に、頭を下げる。
「……申し訳ありませんが、帰宅するように言われましたので……」
二人は、少し微妙な表情で私にうなづいてくれた。
――彼等にとっては、違和感があるやり取りなのだろうけれど。
――私には、それが普通なのだから、仕方ない。
――……そう、自分に言い聞かせた。
「――は、はあ……。じ、じゃあ、ここの面会者の欄に記入をお願いします……」
受付の人は、奥川さんに圧倒されたのか、呆けた表情でうなづくと、面会者の住所氏名を書く用紙を差し出した。
防犯などの関係で、面会の人間は把握しなくてはならないそうだ。
「あ、あのっ……時間も無いので、行きますね!」
そう言って、私は、記入を終えた奥川さんと千谷沢さんを手招きし、彼等は、素直についてきてくれた。
そして、廊下の突き当りを右に曲がった突き当り――そこが、おばあ様の部屋だ。
私は、軽くノックすると、そっとドアを開けた。
「おばあ様、遅くなり、申し訳ありません。琴子です」
「――ああ、いらっしゃい、琴ちゃ……」
ベッドの上で本を読んでいたおばあ様は、眼鏡を外しながらこちらを見やり、言葉が切れた。
「あ、あの……こちらは……」
「初めまして、遅くに申し訳ありません。僕等は、汐見さんの大学の先輩に当たります。僕が奥川、こちらが千谷沢です」
すると、おばあ様は、目を丸くして私を見やり――そして、ゆっくりとベッドを下りる。
「そうですか。琴子が大変お世話になっております。このような姿で申し訳ありません、祖母の富美子と申します」
そう言って、探偵二人に深々と頭を下げた。
二人は、気おされたように、お互いを見やる。
おばあ様は、身体は弱っていても、調子が良ければ通常通りに振る舞えるのだ。
「――いえ、琴子さんには、私達の方こそ、お世話になっておりますので」
千谷沢さんは、これまで見た事も無いような、穏やかでゆったりとした態度で、おばあ様に頭を下げた。
つけていたウィッグが落ちないか、一瞬、心配になってしまったが、大丈夫なようだ。
「琴ちゃん、大学でお知り合いができたようだね。おばあは、安心したよ」
「――う、うん」
合っているようで、微妙に合ってはいない――が、大まかに見れば合っているのか。
私は、少々ぎこちなくうなづいてしまった。
「――それで、お二人。このおばあに、聞きたい事があるんじゃないのですか?」
瞬間、空気が変わる。
「えっ、あ、いや、僕等は――」
奥川さんが、笑みを浮かべてごまかそうとしたが、私は、大きく息を吐くと、探偵二人を見やり首を振った。
――おばあ様には、隠し事はできない。
あきらめて、正直に言った方が、良いんじゃないか。
そう思った瞬間、私のバッグが大きく震えた。
「あ、す、すみません」
慌てて中からスマホを取り出すと――”着信、兄”。
私は、頭を下げて、通話ボタンを押した。
「――ハ、ハイ」
『今、何時だと思ってる!どこにいるんだ⁉』
「……す、すみません。……おばあ様のところです……」
『――は?お前、また――』
「あ、あのっ……すぐに帰りますので……」
すると、大きな舌打ちが聞こえ、思わず身をすくめた。
兄は、機嫌が悪いと、すぐにあからさまな態度を取る。
『オレが迎えにいかないとなのかよ』
「――……え、あ」
一瞬、答えに詰まる。
けれど、おばあ様に代わるようにジェスチャーをされ、スマホを手渡した。
「真人、おばあだよ。琴ちゃんには、タクシー呼んであるから、お前は来なくても一向に構わないよ」
電話の向こうで、何やら言っているようだが、すぐにおばあ様は私にスマホを返してくれた。
「も、もしもし……」
『ばあ様が言うなら、ちゃんと帰ってくるんだろうな』
「ハ、ハイ」
『じゃあ、さっさとタクシー使って帰って来い。――父さんが、機嫌悪くて、手に負えねぇんだからな』
「……ハイ……」
私は、うなづくと通話を終えて、スマホをバッグに片付けた。
そして、様子をうかがっている探偵二人に、頭を下げる。
「……申し訳ありませんが、帰宅するように言われましたので……」
二人は、少し微妙な表情で私にうなづいてくれた。
――彼等にとっては、違和感があるやり取りなのだろうけれど。
――私には、それが普通なのだから、仕方ない。
――……そう、自分に言い聞かせた。