私の恋を探してください
 夜風が緩く髪を撫でていき、私は、肩で切り揃えただけの髪を押さえながら、車のドアを閉めた。
 千谷沢さんと奥川さんは、珍しそうに、一面に広がっている田んぼを見ている。

「――夜の田んぼって、ちょっと、不気味かもな」

「千谷、不気味とか言わない。でも、雰囲気あるね」

「……今は、水を張っているから、月や星の光が反射するんです」

 私にとっては、いつもの光景でも、彼等にとっては物珍しいのだろう。
「――そっか。汐見さんは、見慣れているんだよね」
「……ハイ」
 暗に田舎者だと言われているような気がして、少しだけ、返事が遅れた。
 それに、敏感に気づいた奥川さんは、バツが悪そうな表情を見せる。
「あ、いや――そういうところで育ったんだね、って」
「……いえ、田舎者なのは事実ですし」
「別に、そんな風に言わなくても良いんじゃねぇの」
 千谷沢さんは、あっさりとそう言って、私をのぞき込む。
 空からと田んぼの水で反射した月の光が、その美しさを際立たせて、思わず硬直してしまった。

 ――……綺麗……。

 きっと、彼には、そんな言葉なんて必要無いんだろうけれど。

「琴子?」
「えっ、あ、いえ――」
「それで、何が気になるんだ?」
「え」
 私は、急な話題の変化についていけず、一時停止してしまった。
「家に帰るのが嫌なのかよ?」
「――……いえ……そういう訳では……」
 千谷沢さんは、体勢を直すと、大きく伸びをした。


「……ま、事情はどうあれ、帰るところがある(・・・・・・・・)んだから、良しとしろよ」


 そして、そう言って、あっさりと車に戻っていく。

 ――……え?
 ――……えっと……今のは、どういう……。

 すると、軽く肩を叩かれ、私は、顔を上げた。
「奥川さん」
「――ゴメンね。アイツも、いろいろあるんだ」
「……はあ……」

 ――……きっと、私が聞いたところで、彼等は詳しく話してはくれない。

 ――……それは、当然の事……のはずなのに。


 ――……どこか、さみしく感じてしまった。


「で、汐見さん。このまま家に向かっても大丈夫なのかな?」
「――あ、ハ、ハイ」

 ――もう、家の前でなく、少し外れたところに停めてもらって、そこから歩こう。
 ――とにかく、家族と顔を合わせる事が無いように、すぐに帰ってもらえば良い。

 私は、そう思い、うなづいて返す。

「――……じゃあ、行こうか」

 奥川さんは、少しだけ何か言いたげにしたけれど、飲み込んでくれた。

「……よろしくお願いします」

 それに、心の中で感謝すると、私は、車に再び乗り込んだのだった。
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