私の恋を探してください
1.棒を投げたら、探偵に当たるもの
「だから!困るんですってば!!」

「こっちも困るんだよ!」

 駅員の詰め所で、そんな言い合いがもう、十五分だろうか。
 事情聴取をされている痴漢と、駅員があきれるほどに、私と元”美女”は、延々と同じ言葉を繰り返していた。


「ハイハイ、もう、二人とも、いい加減にあきらめてもらえるかな」


 すると、先ほど痴漢を拘束していた男性が、弱り果てながら私と彼を引きはがした。

颯介(そうすけ)

千谷(ちや)、あんまりしつこいと、お前が捕まるよ?前科(マエ)があるでしょ」

「うるせぇな」

 その彼は、穏やかにクギを刺すと、私を振り返った。

「急いでるところ、本当に悪いけれど――届けだけは出してもらえるかな」

 そう言って、机に置いてある一枚の用紙を、トン、と、指で軽く叩く。

「とりあえず、コレだけ書いてもらえば、後は警察の方が対応するし」

 私は、彼の手元にある”被害届”を見やる。

 ――正直……書いている時間すら惜しい。

「そろそろ、来られるかと」
「ああ、ハイ。ありがとうございます」
 そっと、駅員が長身の方の男性に小声で言うと、彼は、慣れたようにうなづいた。

 ――そもそも――誰も疑問に思っていないようだけど……。

 ――……この人達……何者、なんだろう……?

 でも、そんな事を考えている場合でもないのだ。
 一刻も早く、ここから逃げないと。
 私は、視線を下げ――そして、紙を押し返すと顔を上げた。

「え」

「すみません!こうやってる間にも、おばあ様の容態が悪化するかもしれないので!」

「――え」

 その言葉に、一瞬にして、場がたじろぐ。

 ――今、おばあ様は、いつどうなるか、わからない状態なのだ。

 私は、頭を深々と下げると、詰め所を飛び出した。

 ――待ってて、おばあ様。
 ――私が、必ず、会わせてあげるから。

 逃げるように駅を小走りに出て――そして、固まる。


「――……えっと……」


 どこを見ても、大きなビル。
 私は、バッグから、住所を書いたメモを取り出そうとして、一時停止。

 ――うそ、無いっ⁉

 ――家に置いてきた⁉

 でも、絶対に忘れないように、学生証に挟んでおいて――。
 ――いや、そもそも、学生証が無い!

 私は、行き交う人にぶつかりそうになり、慌てて、道の端に逃げる。
 そして、持っていたバッグをひっくり返す勢いで探すけれど、見当たらない。

 ――どうしよう!
 ――住所とか電話番号とか、書いてあったのに……。



「N大二年、汐見(しおみ)琴子(ことこ)。――依頼内容(・・・・)は」



「――……え」


 声のする方を振り返ると、先ほどの二人。
 そして、先ほど言い合った元”美女”が手にしていたのは――私の学生証だ。

「かっ……返しっ――……え?」

 慌てて手を伸ばそうとして、脳内が、ようやく言葉をかみ砕いてくれて、目を丸くした。


C・O(シー・オー)探偵事務所。――千谷沢(ちやざわ)(あおい)だ」

「同じく、奥川(おくかわ)颯介(そうすけ)です」


 私は、バッグを抱えたまま、硬直してしまった。



 ――拝啓、おばあ様。

 ――都会では……棒を投げたら、探偵に当たるものなのでしょうか……。

< 2 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop