私の恋を探してください
 駅から徒歩で十分ほどの、かなり年季の入ったビルに、私を連れた二人は平然と入っていく。

 ――……だ、大丈夫……なのよ、ね……?

 階段三段分の距離を保ちながら、五階まで。
 少々息が切れてしまうが、エレベーター自体が無いようだ。
 そして、到着した目的地。

 ――C・O(シー・オー)探偵事務所。

「どうぞ、入って」

 穏やかに長身の”優男”――奥川さん、だったか――が、私をうながした。

「し、失礼……します……」

 私は、中に入ると、思わずキョロキョロと見回してしまった。
 古い外観の割に、部屋は小綺麗。
 普通のオフィスと言ってもわからないほど、整然としていた。
「今、お茶淹れるから。そこ、座っててね」
「あ、ありがとう……ございます……」
 奥川さんは、にこやかに、そう言ってソファに視線を向けると、給湯室らしきところへ入っていった。

 ――……けれど、後ろからの視線の強さに、私は、恐る恐る振り返る。

「……ンだよ」
「……い、いえ……」
 元”美女”――千谷沢さんと言ったか――は、ジロリ、と、私を見やると、目の前のソファに、ドカリ、と、座った。

「――何やってんだ、座れ」

「あ、ハ、ハイ」

「コラコラ、千谷。()一般の依頼者なんだから、圧かけないの」

 ――え。

 どうぞ、と、目の前のローテーブルに置かれた湯呑を見る事無く、私は、奥川さんと千谷沢さんを交互に見つめた。

「……ンだよ」

「……は……”初”……??」

 ――と言う事は……実績、無し??

 そう頭の中で結論付けると、私は、勢いよく立ち上がった。

「おい」

「かっ……帰ります!」

「は?」

「わ、私、時間が無いんです!――実績も無いところにお願いしている余裕なんて……!」

 そう言ってドアの方へ駆け出そうとするが、手首を掴まれ、ビクともしない。

 ――……え。

 振り返れば、千谷沢さんが、眉間に深いシワを刻みながら私を睨みつけていた。
 その視線の強さに、ビクリ、と、肩を震わせる。
「――待て」
「はっ……離してっ……くださいっ!」
「まあまあ、待って待って、汐見さん。千谷も即座に実力行使はしないの」
 奥川さんが、そう言いながら、千谷沢さんの手を引きはがす。
 ――結構な強さだったはずなのに、いとも簡単に、だ。
「ゴメンね。コイツ、口下手で――すぐに行動しちゃうタチでさ」
 ――いや、それは、職業的にどうなんでしょうか。
 少々引きつりながらもうなづくと、彼は、微笑んで続けた。

「一般の実績は無いんだけど――コレでも、二人、元警察官。そして、事務所開けてから三年間、警察関係の非公式の依頼だけ受けてたんだよね」

「――え」

「けど、まあ、いろいろと厳しいご時世なもので。そろそろ、一般の依頼も受けた方が良いんじゃないかと思って――」

 けれど、そう言いかけて奥川さんは私を見やった。
「でも、宣伝とか、まだだったんだけど――どうやってウチの事?」
 その問いかけに、姿勢をただした。

「大学の教授から、教えていただきました。――お知り合いに、警察の方がいらっしゃるとの事でしたので」

 私の言葉に、二人は、顔を見合わせる。
 ――何か、マズかった?
「……あ、あの……」
「――……N大、だよね。……もしかして……鳥居(とりい)教授?」
「ハ、ハイ……ご存じでしたか……」
「……あの変人ジジイ。……よりによって……」
 複雑な表情の二人に、たじろいでしまう。
 ――……鳥居教授を”変人”と呼べるのは、彼の教えを受けた学生だけだ。

「……オレ等、あのジジイには、いろいろと借り(・・)があるんだよ」

 千谷沢さんは、苦々しく言い捨てると、ソファに座り直した。

「――後が面倒だ。依頼は受ける。――内容は」

 ――……一応、依頼者なんですけど……。

 私は、妙に態度のデカい彼を見やり、思わず、眉を寄せてしまった。
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