私の恋を探してください
5.親が決めた婚約者
「おはよう、琴ちゃん。これから大学(がっこう)?」

「……おはようございます、(まさる)兄さん」

 家を出て、いつものように、バス停に向かおうとすると、勝兄さんに声をかけられた。
 彼も、ちょうど、ウチの隣にある自宅から出るところだったらしい。
 ――まあ、隣と言っても、街中なら五軒くらい間に入るような距離だけれど。
 作業が、ひと段落ついたようで、彼は、Tシャツとデニム、首にタオルを巻くだけのスタイル。
 だが、大学まで女性に不便した事が無いというウワサもあるだけあって、農業従事者という印象が薄い。

「あの……急ぎますので、失礼します」

 私は、頭を下げると、彼の前を去ろうとするが、不意に手を引かれ振り返る。

「バス停まで送るよ?」

 勝兄さんは、首のタオルを取って肩にかけると、ニコリ、と、微笑む。
 けれど、私は首を振った。

「いえ、勝兄さんも、お仕事がありますでしょうから――」

 彼は、今、ウチの田んぼの手伝いをしている。
 ――それは、私と結婚するという近い将来のため。

「大丈夫。今、ひと段落着いたし」

「いえ。お気持ちはありがたいのですが――」

 けれど、断る間もなく、少々強引に手を引いて歩き出されてしまい、私は、呆気に取られてしまう。
 
 ――突然、どうしたんだろう。

 いつもなら、顔を合わせても、挨拶くらいしかしないのに。
 親戚の集まりの時は、多少世間話はするけれど――大体、彼は兄といる事が多いので、そこまで親しい訳でも無い。
 だから、婚約者とはいえ、私が大学を卒業するまでは、何をするでもない。
 今現在、それは、ただの肩書だ。

 そう、私が不思議に思いながらついて行くと、彼は、振り返る事無く言った。


「――琴ちゃん、昨夜、よそ者(・・・)に送ってもらったんだって?」


 瞬間、私は、息をのみ、硬直する。


 ――……ああ……そういう事か。


 父親と叔父さんは、昔から一緒に田んぼや畑をやっているので、勝兄さんは兄とよく遊んでいた。
 私とは、だいぶ年齢も離れていたので、接する機会は少なかったけれど――二人の話が合うという事は、考え方が同じという事。
 父親の考え方は、兄へと刷り込まれていき、そして――それは、勝兄さんも同様。
 私の婚約者にあてがったのは、そういう理由もあってだろう。

「昨日、真人(まさと)から聞いたよ。――夜中近くに、車で送ってもらった、って」

 勝兄さんが聞いたという事は、恐らく、探偵二人の事は、もう集落中に広まっているだろう。
 こういう情報は、回るのが異様に速いから。

「……大学の先輩です」

「でも、集落に入れるくらいには、気を許してる」

「――……っ……」

 私は、言葉に詰まるけれど、何とかひねり出して、小声で言った。

「……お……恩師が……頼りにしている方々なので……」

「――……ふぅん」

 その、少しだけ不満そうな空気に、肩を震わせる。
 勝兄さんは、足を止め、振り返った。
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