私の恋を探してください
――おばあ様、本の間から、お手紙が落ちてきました。
あれは、小学生の頃。
いつものように、蔵の中で気になった本を手に取ろうとしたら、古い封筒が一緒に落ちてきた事があった。
それを拾った私は、自分の部屋で縫い物をしていたおばあ様のところに、渡しに行ったのだ。
――おや。
――随分と古いものが出てきたねぇ。
そう言って手紙を受け取ったおばあ様は、一瞬だけ、遠い目をした。
――おばあ様、出さないのですか?
手紙は、ポストに入れて出すもの。
自分にもできるお手伝いだと思い、そう尋ねたら、悲しそうに微笑まれた。
――ごめんね、琴ちゃん。
――これは、おばあが女学生の頃に書いたものだよ。
そう言いながら、封筒の中身を取り出すと、おばあ様は懐かしそうに眺めた。
――どなたに出すつもりだったんですか?
おばあ様は、何気なく尋ねた私を見やると、緩々と首を振って返した。
――……手渡すつもり――だったんだけどね……。……昔は、勇気がどうしても出なくて……結局、見えないところに片付けてしまったんだよ。
まさか、見つかるなんてねぇ――。
そう続けたおばあ様は、私の頭をそっと撫でる。
幼い私には、よくわからなかったけれど――きっと、大事な事だったんだろう――それだけは、何となく感じた。
そして、何故か、興味をかきたてられ、おばあ様に尋ねたのだ。
――おばあ様、どうして渡せなかったのですか?
少しだけ身を乗り出す私を見やり、おばあ様は、目を丸くした。
――おや、珍しい。
――琴ちゃんが、そんな風に言うなんて。
おばあ様は、少し考え、テーブルに置いてあったお茶で口を湿らすと、私を見やり微笑んだ。
――まあ……もう、半世紀以上も前の事だからねぇ……。
うろ覚えだよ、と、ほんの少しだけ、話してくれたのだ。
おばあ様は、私と同じく、集落で生まれ育った。
本当は、高校には行かない予定だったけれど、その時代の総代――私の曽祖母だ――が、戦後の教育を受けさせようと、村に戻って来る事を条件に、おばあ様を通わせてくれたのだそうだ。
――あの頃は、戦後のいろいろ大変な時で、集落も行き詰まっていた頃でね……。
――男連中は全員戦争に駆り出されて、帰って来た人間は片手で数えるほど。
――だから、何か違う事をしないと、生き延びれないと思ったみたいでね。
おばあ様は、少し遠い女子高に通う事になり――そして、その隣には、男子校があったそうだ。
――ある日、お友達と一緒に学生寮に帰る途中、おばあがハンカチを落とした時があったんだよ。
――それを、その男子校に通っていた人が、拾ってくれてね。
遠い目をしながら、おばあ様は、つい昨日起こった事のように話す。
うろ覚えと言っていたけれど、話していくうちに、当時を思い出してきたのだろうか――。
それほどまでに、鮮やかな出来事。
そう思うと、何だか、うらやましかった。
――その時、おばあは、緊張して何にも言えずに、頭を下げて逃げるように帰ったんだけど――それから、一言でも、お礼を言っておけば良かったって思ってね。
――でも、直接なんて言える訳は無くて、手紙を書いてみたんだけど――やっぱり、渡せなくてね……。
私が、それ以来、会う事も無かったのかと尋ねたら、おばあ様は、笑って首を振った。
――今じゃ、怒られるだろうけど……ずっと、寮の門限ギリギリまで待ち伏せてたんだよ。
――ご友人と校門を出て来るところも、何度も見てたんだけど……最後の最後まで勇気が出なくてねぇ……。
そして、おばあ様は、手紙を封筒に戻すと、それを眺め、口元を上げた。
――覚えているのは、ヨシさん、って、言われてた事だけ。
――……ああ、でも、そうだね――やっぱり――死ぬ前までには、会って、ハンカチのお礼を直接言いたいものだねぇ……。
私は、少しだけ黙り込むと、ポツリ、と、尋ねた。
――おばあ様、その人が、好きだったのですか?
すると、おばあ様は、目を丸くして――笑って言った。
――ええ、ええ。そうだね。
――……おばあの、初恋の人だったねぇ……。
そう言ったおばあ様は、とても楽しそうで――きっと、良い思い出ばかりでは無かっただろう時代に、そう思える事は、素敵だと思った。