私の恋を探してください
6.本当の恋人だったら、幸せだったんだろうか
 気まずさをあらわにした二人を前に、いたたまれなくなった私は、急いでその場を離れようとし――千谷沢さんに防がれた。

「おい、待て、琴子。話が、まだだろ」

 私は、彼の綺麗な顔を見る事ができず、視線を逸らす。
 それが不服だったのか、彼は、わざわざ、逸らした方向に移動して、私をのぞき込んできた。

「……っ……あ、あのっ……」

「あのなぁ……一応、オレ等、お前の依頼で動いてんだよ。大体、お前も昨日のメールで、何かあれば協力するって言ってただろうが」

「……そ、それは……」

 反論できずに黙り込む私に、奥川さんが優しく告げた。

「ゴメンね。……スルーしようか悩んだんだけど……気づいてなかったみたいだから……。ホラ、いろいろ言われちゃうと、気まずいでしょ?」

 私は、視線を下げ、首を振った。
 位置的に、どうやったって隠れてはくれないだろうし――恐らく、勝兄さんは、それをわかった上でつけたのだろう。

「……仕方ありません……。……昨日の事は、もう、集落中に広まっているでしょうし――……ペナルティのようなものです……」

 それを聞き、ギョッとした千谷沢さんは、私の両肩を掴んだ。

「……おい、琴子。……お前、本当に大丈夫なのか」

「――……え?」

 至近距離で凄まれ、心臓が跳ね上がる。
 彼は、そんな私の心境などお構いなしに、続けた。

「何で、お前、そんなトコから逃げようと思わねぇんだ⁉」

「ち、千谷沢さん……?」

「本当に、それで良いのかよ⁉婚約者なら、もっと、お前の事、大事にするモンじゃねぇの⁉」

「……え……?」

 千谷沢さんの言う事が、よくわからない。

 ――良いも何も――私には、選択肢なんて無いのだ。

 勝兄さんは、父さんや兄さんと同じ――なら、逆らわなければ、普通には生きていけるはず。

 硬直している私に、奥川さんが、救いの手を差し伸べてくれた。

「――……汐見さん。あのさ、ひとまず、千谷の言う事は置いておいて――聞きたい事があるんだけど」
「あ、ハ、ハイ……。でも、電車が……」
「うん。だから、歩きながらで良いかな」
「そ、それなら――」
 私がうなづくと、奥川さんは歩き出す――が、千谷沢さんは、その場に立ち止まったままだ。
「千谷?」
「……納得いかねぇ」
「――え?」
 彼は、ボソリ、と、つぶやくと、大股でやって来た。

「おい、琴子。お前、恋愛した事無ぇのかよ」

「――……え……?」


 ……恋愛……?

 ――私、が?


 目を丸くした私に、千谷沢さんは、ムスリ、と、続ける。

「本当に好きだったら、相手の事、大事に想うのは普通なんだよ」
「千谷、そのくらいにしといたら。踏み込みすぎだよ」
「うるせぇ、颯介。……このままじゃ、コイツ、一生、あの集落で、人権無視されたままだぞ」
「――……そうは言っても……汐見さんの事情だし……僕等は、彼女の依頼を遂行する事が最優先だろ」
 気まずそうに奥川さんが答えると、千谷沢さんは、彼を睨み上げた。

「だからって、コイツをこのままにしておけねぇだろ。依頼者が不健康状態じゃ、士気にかかわる」

 奥川さんは、肩をすくめると、私を申し訳無さそうに見やった。
「――ゴメンね、汐見さん。……ちょっと、千谷、落ち着かせないとだから、先行くね」
「……ハ……ハイ……」
 そう言って、彼は、千谷沢さんを引きずるように連れて歩き出し、私は、数メートル遅れて同じ道を歩き出す。
 二人は、お互いに何かを言い合っているが――千谷沢さんは、まだ、不服そうだ。
 
 ――……恋愛、なんて――私には、別世界の話なのに。

 徐々に前を行く探偵二人の姿が遠くなる。
 ――千谷沢さんにとって、私の考えは、到底、受け入れられるものではないのだろう。
 そう思うと、何だか、さみしくて――胸が痛い。

 ――彼はきっと――恋人を、大事にしてくれる人なのだ。

 ――それが、当然の事のように。

 すると、先を行く二人が、校門を前にして、不意に足を止めた。
 彼等の前には――

「ま、勝兄さん?」

「琴子、終わった?」

 彼は、軽く手を上げ、探偵二人の脇を通り過ぎ、私のところにやって来た。
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