私の恋を探してください
私は、複雑な思いを抑え込むと、できる限り、簡潔に依頼内容を伝えた。
「――人を、探してほしいのです」
「「……人探し?」」
二人に聞き返され、私は深くうなづく。
「祖母の”初恋の人”です」
その言葉に、千谷沢さんはしかめ面になり、奥川さんは、不思議そうな表情を見せた。
「……お祖母さん、さっき言ってたけど……危ないのかな?」
私は、少しだけ悩んで首を振った。
「……今すぐという訳では無いのですが……もう、施設と病院を行ったり来たりで――」
「失礼だけど、時間が無い可能性もあるって事?」
「――ハイ」
奥川さんは、持っていたバインダーを開くと、私に尋ねる。
「――じゃあ、まずは、汐見さん。キミの事、少し聞いても良いかな」
私は、うなづくと、深呼吸する。
――正直、話すのは得意じゃない。
でも――今は、おばあ様のため――そう思い、口を開いた。
「――私は、F県との県境に近い、S村の集落に住んでます。……父親は、集落の総代で、祖母は、父の母親です」
そう言って顔を上げると、二人は、何だか微妙な表情だ。
「……あ、あの……?」
「あ、い、いや、ゴメン。――正直、集落、とか、耳慣れなくて」
申し訳無さそうに言う奥川さんに、私は、首を振って返す。
――それもそうだろう。
――それに、あの、時代に取り残されたような集落は――知っている人など、ほんのわずかなのだ。
「大丈夫です。――……昔から、住んでいるのは、私の血縁者のみの場所ですし」
私は、バッグからスマホを取り出すと、最近覚えた、マップを表示した。
そして、現在地から自分の家に移動させる。
「――この辺です」
そこは――周囲には山しか無いようなエリアで、私達が住んでいるところが、辛うじて開けて表示されているくらい。
「……さ、さすがに……驚いた、かな。ね、千谷?」
「まあ、良い。それで、どこの誰を探せば良い」
「千谷、人の話聞きなってば」
「時間が無いんだろうが」
私は、マップを消すと、メモを表示させた。
「……手がかりと言っても……どこにお住まいなのかは、わかりません。……名前も……フルネームまでは⋯⋯」
「――……は??」
「わかるのは――七十年前、おばあ様が通っていた女学校の、隣の男子校に通っていた――ヨシさん、と、おっしゃる方だという事です」
そう言い切ると、私は、頭を深々と下げた。
「無謀なのは、わかり切っております。――鳥居教授にも、言われました。……その上で、こちらなら、もしかして、と、ご紹介いただきました次第で……」
そして、急いでバッグを漁り、封筒を差し出した。
「汐見さん?」
「こっ、これは、前金――とでも言うのでしょうか。家族に内緒で、自分の貯金をすべて取り崩してまいりました。……もし、その方が見つかったのなら、別途、料金はお支払いいたします」
小さい頃から、ほとんど使う事の無かったお年玉やお小遣いだ。
金額は――約百万。
これでダメなら、他の探偵社を片っ端から当たって――。
すると、封筒が押し返され、私は、息をのむ。
――ああ……やっぱり、ダメか……。
「ウチ、前金制じゃねぇんだよ」
「――え」
「それに、明確な料金制度は一応あるんだよね。ホラ、いろいろうるさいし。――でも、まあ、成功報酬くらいは、契約に加えてもいいかな?」
「――……え」
――……契約……って……。
私は、目の前の二人を見つめた。
「依頼は受けるって言っただろうが。調査費用は、後で請求書送付するから、指定口座に振り込みだ」
千谷沢さんは、そう言って立ち上がった。
「――汐見琴子。まずは、洗いざらい、知っている事すべて話せ」
そして、まるで、私が犯人のような物言いで、おばあ様の初恋の人探しは、始まった。
「――人を、探してほしいのです」
「「……人探し?」」
二人に聞き返され、私は深くうなづく。
「祖母の”初恋の人”です」
その言葉に、千谷沢さんはしかめ面になり、奥川さんは、不思議そうな表情を見せた。
「……お祖母さん、さっき言ってたけど……危ないのかな?」
私は、少しだけ悩んで首を振った。
「……今すぐという訳では無いのですが……もう、施設と病院を行ったり来たりで――」
「失礼だけど、時間が無い可能性もあるって事?」
「――ハイ」
奥川さんは、持っていたバインダーを開くと、私に尋ねる。
「――じゃあ、まずは、汐見さん。キミの事、少し聞いても良いかな」
私は、うなづくと、深呼吸する。
――正直、話すのは得意じゃない。
でも――今は、おばあ様のため――そう思い、口を開いた。
「――私は、F県との県境に近い、S村の集落に住んでます。……父親は、集落の総代で、祖母は、父の母親です」
そう言って顔を上げると、二人は、何だか微妙な表情だ。
「……あ、あの……?」
「あ、い、いや、ゴメン。――正直、集落、とか、耳慣れなくて」
申し訳無さそうに言う奥川さんに、私は、首を振って返す。
――それもそうだろう。
――それに、あの、時代に取り残されたような集落は――知っている人など、ほんのわずかなのだ。
「大丈夫です。――……昔から、住んでいるのは、私の血縁者のみの場所ですし」
私は、バッグからスマホを取り出すと、最近覚えた、マップを表示した。
そして、現在地から自分の家に移動させる。
「――この辺です」
そこは――周囲には山しか無いようなエリアで、私達が住んでいるところが、辛うじて開けて表示されているくらい。
「……さ、さすがに……驚いた、かな。ね、千谷?」
「まあ、良い。それで、どこの誰を探せば良い」
「千谷、人の話聞きなってば」
「時間が無いんだろうが」
私は、マップを消すと、メモを表示させた。
「……手がかりと言っても……どこにお住まいなのかは、わかりません。……名前も……フルネームまでは⋯⋯」
「――……は??」
「わかるのは――七十年前、おばあ様が通っていた女学校の、隣の男子校に通っていた――ヨシさん、と、おっしゃる方だという事です」
そう言い切ると、私は、頭を深々と下げた。
「無謀なのは、わかり切っております。――鳥居教授にも、言われました。……その上で、こちらなら、もしかして、と、ご紹介いただきました次第で……」
そして、急いでバッグを漁り、封筒を差し出した。
「汐見さん?」
「こっ、これは、前金――とでも言うのでしょうか。家族に内緒で、自分の貯金をすべて取り崩してまいりました。……もし、その方が見つかったのなら、別途、料金はお支払いいたします」
小さい頃から、ほとんど使う事の無かったお年玉やお小遣いだ。
金額は――約百万。
これでダメなら、他の探偵社を片っ端から当たって――。
すると、封筒が押し返され、私は、息をのむ。
――ああ……やっぱり、ダメか……。
「ウチ、前金制じゃねぇんだよ」
「――え」
「それに、明確な料金制度は一応あるんだよね。ホラ、いろいろうるさいし。――でも、まあ、成功報酬くらいは、契約に加えてもいいかな?」
「――……え」
――……契約……って……。
私は、目の前の二人を見つめた。
「依頼は受けるって言っただろうが。調査費用は、後で請求書送付するから、指定口座に振り込みだ」
千谷沢さんは、そう言って立ち上がった。
「――汐見琴子。まずは、洗いざらい、知っている事すべて話せ」
そして、まるで、私が犯人のような物言いで、おばあ様の初恋の人探しは、始まった。