私の恋を探してください
8.力を抜いても良いんだから
おばあ様は、私にソファに座るように促すと、棚からお茶セットを取り出し、電気ポットのスイッチを入れた。
施設とはいえ、入居者の人達が快適に過ごせるように、と、ホテルのような造りなのだ。
――まあ、おそらく、その分料金は高いのだろうけれど。
「琴ちゃん、あの二人は、まだ外にいるのかい?」
「――え、あ……ど、どうでしょう……」
千谷沢さんの事だ、おそらく、納得いかないまま引き下がるような事はしないだろう。
私が言い淀んでいると、おばあ様は、スッと立ち上がって言った。
「ちょっと、庭の散歩に行こうかね。琴ちゃん、付き合っておくれ」
「――……え、ハ、ハイ……」
唐突に言われ、私は、目を丸くするが、おばあ様の後をついて行く。
施設には、かなりの広さの裏庭があり、いろんな花や植物が植えられていて、入居者の方たちの目を楽しませてくれている。
中には、自分で育てたい、と、プランターを持ち込んでいる方もいるそうだ。
裏庭に出るのは、受付を経由しなければならないけれど、おばあ様と私が一緒にいても珍しくは無いので、特に何も声をかけられなかった。
おばあ様は、出入口から裏庭の方へ向かいながら、私に言った。
「もう少し奥なら、防犯カメラにも映らないんじゃないかねぇ」
「――……お、おばあ様……?」
「お二人、その辺にいらっしゃるんでしょう?」
おばあ様が、裏庭の奥に進みながら、フェンスの向こう側へ声をかける。
――すると。
「――……お見通しですか」
少々バツが悪そうに、奥川さんが、木の陰から姿を現す。
その後には、千谷沢さんも。
「邪魔者がいないうちに、聞きたい事を聞いたらいかがでしょうかね」
「……ありがとうございます」
探偵二人は、周囲を見回しながらこちらにやってくる。
そして、フェンス越しに、頭を下げた。
「お気遣い頂いて、ありがとうございます」
「それで――この、おばあに、何を聞きたいのかね?」
「あ、ええっと」
奥川さんが質問を口に出そうとするが、千谷沢さんが、それより先に口を開いた。
「――どうして、琴子を縛り付けるんですか」
「千谷!」
「――……っ……ち、千谷沢さんっ……⁉」
私も、奥川さんも、青くなって千谷沢さんを見やる。
――質問が違うんじゃないんでしょうか⁉
今は、私の事ではなく、おばあ様の初恋の人の手がかりを、聞かなければいけないはずなのに。
「――縛り付ける、とは、どういう意味です?」
けれど、おばあ様は、動揺もせずに、千谷沢さんに聞き返した。
「――琴子が、本当に納得して、婚約したとは思えません。そもそも、集落から自由に出られない時点で、おかしいと思わないんですか」
「――……外の人から見たら、私等の感覚は到底受け入れられないでしょう。ですが、”汐見”は、もう、百年以上、そうやって永らえてきたのですよ。そこで生まれ育った者達は、あなた方のように考える事も無い」
姿勢をただし、千谷沢さんを真っ直ぐに見つめながら、おばあ様は言う。
その凛とした空気に、一瞬、彼はひるんだ。
「……で、でも、もう、時代は変わってるんですよ。いくら閉鎖的な土地とはいえ、外の情報が入ってこないなんてありえない」
「ええ。だから、若い者達は、次第に琴子の様に大学に通い、いろんな経験を積んできますよ」
「――……でも、結局、集落に戻る」
「それが、外に出る条件だからです」
おばあ様は、私を振り返ると、続けた。
「琴子に、不自由な思いをさせております事は、重々承知の上です。ですが、それを乗り越え――そして、自分で選択してほしい――それが、私の考えでございます」
私は、一瞬、息をのむ。
――……おばあ様が、そんな風に思っていたなんて。
「ですから――婚約の事も、琴子の意思を最終的に優先させる所存でございます。たとえ、この娘の両親が反対しようとも」
おばあ様は、そう言うと、私に微笑んだ。
「琴ちゃん、良い先輩を持ったねぇ」
「――……おばあ様……」
――ごめんなさい、本当の事を言えなくて。
私は、心の中で謝りながら、おばあ様にうなづいて返した。
施設とはいえ、入居者の人達が快適に過ごせるように、と、ホテルのような造りなのだ。
――まあ、おそらく、その分料金は高いのだろうけれど。
「琴ちゃん、あの二人は、まだ外にいるのかい?」
「――え、あ……ど、どうでしょう……」
千谷沢さんの事だ、おそらく、納得いかないまま引き下がるような事はしないだろう。
私が言い淀んでいると、おばあ様は、スッと立ち上がって言った。
「ちょっと、庭の散歩に行こうかね。琴ちゃん、付き合っておくれ」
「――……え、ハ、ハイ……」
唐突に言われ、私は、目を丸くするが、おばあ様の後をついて行く。
施設には、かなりの広さの裏庭があり、いろんな花や植物が植えられていて、入居者の方たちの目を楽しませてくれている。
中には、自分で育てたい、と、プランターを持ち込んでいる方もいるそうだ。
裏庭に出るのは、受付を経由しなければならないけれど、おばあ様と私が一緒にいても珍しくは無いので、特に何も声をかけられなかった。
おばあ様は、出入口から裏庭の方へ向かいながら、私に言った。
「もう少し奥なら、防犯カメラにも映らないんじゃないかねぇ」
「――……お、おばあ様……?」
「お二人、その辺にいらっしゃるんでしょう?」
おばあ様が、裏庭の奥に進みながら、フェンスの向こう側へ声をかける。
――すると。
「――……お見通しですか」
少々バツが悪そうに、奥川さんが、木の陰から姿を現す。
その後には、千谷沢さんも。
「邪魔者がいないうちに、聞きたい事を聞いたらいかがでしょうかね」
「……ありがとうございます」
探偵二人は、周囲を見回しながらこちらにやってくる。
そして、フェンス越しに、頭を下げた。
「お気遣い頂いて、ありがとうございます」
「それで――この、おばあに、何を聞きたいのかね?」
「あ、ええっと」
奥川さんが質問を口に出そうとするが、千谷沢さんが、それより先に口を開いた。
「――どうして、琴子を縛り付けるんですか」
「千谷!」
「――……っ……ち、千谷沢さんっ……⁉」
私も、奥川さんも、青くなって千谷沢さんを見やる。
――質問が違うんじゃないんでしょうか⁉
今は、私の事ではなく、おばあ様の初恋の人の手がかりを、聞かなければいけないはずなのに。
「――縛り付ける、とは、どういう意味です?」
けれど、おばあ様は、動揺もせずに、千谷沢さんに聞き返した。
「――琴子が、本当に納得して、婚約したとは思えません。そもそも、集落から自由に出られない時点で、おかしいと思わないんですか」
「――……外の人から見たら、私等の感覚は到底受け入れられないでしょう。ですが、”汐見”は、もう、百年以上、そうやって永らえてきたのですよ。そこで生まれ育った者達は、あなた方のように考える事も無い」
姿勢をただし、千谷沢さんを真っ直ぐに見つめながら、おばあ様は言う。
その凛とした空気に、一瞬、彼はひるんだ。
「……で、でも、もう、時代は変わってるんですよ。いくら閉鎖的な土地とはいえ、外の情報が入ってこないなんてありえない」
「ええ。だから、若い者達は、次第に琴子の様に大学に通い、いろんな経験を積んできますよ」
「――……でも、結局、集落に戻る」
「それが、外に出る条件だからです」
おばあ様は、私を振り返ると、続けた。
「琴子に、不自由な思いをさせております事は、重々承知の上です。ですが、それを乗り越え――そして、自分で選択してほしい――それが、私の考えでございます」
私は、一瞬、息をのむ。
――……おばあ様が、そんな風に思っていたなんて。
「ですから――婚約の事も、琴子の意思を最終的に優先させる所存でございます。たとえ、この娘の両親が反対しようとも」
おばあ様は、そう言うと、私に微笑んだ。
「琴ちゃん、良い先輩を持ったねぇ」
「――……おばあ様……」
――ごめんなさい、本当の事を言えなくて。
私は、心の中で謝りながら、おばあ様にうなづいて返した。