私の恋を探してください

 ――ああ。
 ――私には、やっぱり、自由なんて無いのだ……。


 私は、自分の部屋に入り、バッグを投げるように置くと、その場にへたり込む。
 おばあ様の言葉に、ほんの少し希望が持てたのに……あっという間に折れてしまった。


 ――……逃げるなんて選択肢は、私には無い。

 ――ここで――一生を終えるのだ。


 私は、にじんできた涙をそのままに、目を伏せる。

 ――ごめんなさい、おばあ様。

 ――やっぱり、おばあ様の言うようには、なれません。

 生まれた時から、刷り込まれてきたものには、どうやったって抗えないのだと、再認識してしまった。
 
 ――お前は、大きくなったら、婿を取って、子供を産んで育てる。

 ――それが、”汐見”に産まれた女の役目だ。

 物心つく前から、事あるごとに父親に聞かされ続けてきたのだ。
 特に、お盆や正月、冠婚葬祭――親戚中が集まるような場所で、宣言するように言われれば、もう、反抗なんてできるはずもない。

 ――ハイ、わかりました。

 そう答えておけば、両親も親戚も――みんな、喜んだ。
 私の存在価値は、そこにしか無いかのように。

 逃げる選択もできない未来しか選べないのなら――。

 ――……最後に、おばあ様の初恋の人だけは――……。

 私は、涙を無理矢理こすると、立ち上がった。


 ――……絶対に――会わせてあげるから。


 そう、決意しながら。



 翌朝、バス停まで歩いて行く途中、勝兄さんが追いかけてきた。
 仕事を抜け出して来たようで、首にタオルを巻いたままの作業着姿だ。

「お、おはようございます、勝兄さん」

「おはよう、琴ちゃん」

 そう言うと、彼は、私の隣に並び歩き出す。
「今日は、何時頃に帰るの?」
「え」
「迎えに行くからさ」
 私は、思わず、彼を見上げる。

 ――また、大学まで来るの……⁉

 けれど、苦笑いで首を振られた。

「残念だけど、今日は、あちこちの仕事が溜まっててね。駅までだよ」

「……あ、ありがとうございます」

 私は、断る選択肢を与えられず、うなづいて返した。

「あの……たぶん、いつもの時間では、と……」

 ――そう。
 ――今日は、探偵二人のところに行くつもりなのだ。

 一昨日におばあ様から頂いたお菓子は、バッグの中に隠し持っている。

「うん、わかったよ。勉強、頑張ってね」

「あ、ありがとうございます……」

 ほんの少しの罪悪感はあったけれど、私は、頭を下げる。

 すると、道の向こうから、いつものバスがやって来た。

「じゃあ、いってらっしゃい、琴子(・・)

 そう言うと、勝兄さんは、私に軽くキスをする。

 ――な、何で、朝早くからっ……!!

 反応に困り眉を下げると、クスクス、と、笑われた。

「いずれ、慣れてもらわないとだからさ」

「……っ……い、行って、きますっ……!」

 真っ赤になっただろう顔を伏せ、私は、彼に頭を下げると、ちょうど停止したバスに乗り込む。
 けれど、昨日の父親の言葉が頭の中を回り続け、せっかくの通学時間を勉強に宛てる事もできなかった。

 ――……きっと……千谷沢さんが知ったら、激怒するんだろうな……。

 ふと、そんな思いが頭をよぎる。
 でも、彼にそんな事を伝えるつもりも無い。

 ――私は、ただの依頼人なのだから。

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