私の恋を探してください
 月曜の一限は、やはり、ぼんやりとしている学生が多く、私は、そんな中、心理学の授業の教室に入った。
 そして、一番後ろの席に座る。
 いつもなら、もう少し前なのだけど――集中できるか不安な状態では、教授に申し訳無い。
 そんな事を思いながら、バッグから教科書など一式を取り出す。
 そして、中に一緒に入れていたお菓子が割れていないか、そっと確認したが、大丈夫なようで、一安心した。

 ――今日は、四限で終了するから、その後、探偵事務所まで行って――……。

 ――ああ、でも、二人ともいるだろうか。

 ――けれど、わざわざメッセージで確認する事でも無いし――……。

 ――でも、あの、おばあ様の言葉は、何かヒントにならないだろうか……。

 そんな風に、頭を悩ませていると、不意に、隣の席に人影が見え、慌てて隣の席に置いていたバッグを足元へと動かす。
 視界に入った服で、女性と認識し、少しだけ警戒心が薄れた。

「ここ、良い?」

 少々ハスキーな声で尋ねられ、私は、視線を下げてうなづく。

 ――あれ……?
 ――何だか、聞き覚えがあるような……。


 ――すると。


「琴子、オレだ」


「――……っ……⁉」


 私は、勢いよく顔を上げる。
 目の前には、変わらぬ美貌の――女装姿の千谷沢さんが座っていた。
 
「ちっ……⁉」

 まだ、授業が始まる前だったので、私の声は、学生達が談笑する声に紛れてくれた。
 けれど――それでも、視線が集まるのを避けたかったので、小声で彼に尋ねる。

「ど、どうして……」

「ん?いや、あれから大丈夫だったか、心配だったからな」

「――え、あ……ありがとうございます……」

 その言葉に――たとえ、社交辞令だろうが、私の胸は、跳ね上がる。

「――で、ばあ様はどんなだ?」
「え」
「オレ達と話した事で、何か変化はあったか?]
 私は、彼をまじまじと見つめた。
 ――何で、見ていたかのように言うのだろう。
 そんな風に思ったのが通じたのか、彼は、口元を上げた。
「記憶、ってのは、結構、芋づる式になってるもんだからな」
「――え」
「一つ思い出したら、それに関連したものも、引きずられて出てくる事が多い。それに、他人との会話が刺激になる事もあるしな。――聞き込み(・・・・)の時には、そんな風に思い出す人間も多かったんだよ」
「――あ」

 ――そうだった。
 ――この人は、元、警察官。

「あ、あの」

 私が、おばあ様の様子を伝えようと口を開くと、ちょうど、教授が入って来て授業が始まってしまった。
 ――仕方ない。また、後でにしよう。
 すると、不意に、差し出されたスマホが視界に入る。

 ――授業中で申し訳無いけど、そんなに時間は無い。
 ――筆談で良いか。

 彼を見やると、少しだけ眉を下げられた。
 私は、小声で彼に言う。

「あ、あの……後で、メールを……」

 そうすれば、いろいろと確認しながら伝えられる。
 けれど、千谷沢さんは、軽く首を振った。

 ――履歴が覗かれるかもしれねぇ。

 私は、その不穏な言葉に、顔を上げた。
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