私の恋を探してください
「悪かったな、あの時間の電車、多いんだよ、痴漢が」

「……そ、そう、なんですか……」

 出会った時のような状況が、まるで、日常茶飯事なのか。

「でも、二回も被害に遭うってコトは、もしかして、情報が共有されてるかもね」

 奥川さんは、そう言って、ソファに座った私の前に、コーヒーカップを置いた。

「どうぞ。――落ち着けるかは、わからないけど、ここは安全だからね」

「……ありがとうございます……」

 私は、うなづき、ありがたくコーヒーを口にしようとして、目を丸くする。

「……すごい……」

 カップには、ミルクで描かれた花。
「ちょっと、気分転換にどうかなってね」
 奥川さんはそう言って、優しく微笑む。
 私の状態を(おもんばか)っての事だろう。
「……ありがとうございます……」
 すると、千谷沢さんが、ほんの少しだけ誇らしげに言った。
「颯介、バリスタの資格持ってるからな」
「――え」
「もう、資格マニアみてぇなモンなんだ、コイツ。警察官(サツカン)辞めた後から、ほぼ毎月、資格試験受けてんだよ」
「だって、探偵やっていくには、いろいろとあった方が良いじゃない」
「だからって、お前は、趣味と化してるだろ」
「――まあ、否定はしないけど。あ、来週の日曜も試験あるから」
「は⁉初耳なんだけど⁉」
「だって、休日の予定を逐一報告する義務は無いでしょ」
「相棒だろうが!大体、探偵に定休日あると思うか⁉」
「無かったら、ブラック企業でしょ」
 延々と続く言い合いに、私は、いつ、口を挟めばいいのかわからない。
 すると、奥川さんが気がついたのか、眉を下げた。
「ああ、ゴメンね、汐見さん。せっかく来てくれたのに」
「い、いえ……」
 私は、首を振って返す。
 本来の目的を忘れそうになってしまった。
 ありがたく、コーヒーに口をつけると、大きく息を吐く。
 そして、大学で千谷沢さんに伝えた事を、もう一度、奥川さんにも伝えたのだった。


「――難しいね」

 私の報告を聞き終えた奥川さんは、顎に手をやり、つぶやく。

「……おばあ様の感覚が元だから――本当に、難しい話をしていたのか、本当に、計算の話だったのか――」

「……そ、そう、ですよね……」

 冷静に言う奥川さんに、私は、視線を下げた。

 ――あまり、役に立てなかった……。

 けれど、彼は、そのまま続ける。

「でも、今、絞っている人の中に、そういった感じで話すような人がいるか、探してみるよ」

「――え?」

 私は、驚いて顔を上げた。

「計算の話、だとして――学校の外で、友人と、そういう話をするのであれば、相当、勉強が好きか、もしくは、授業についていけないか――」

「……えっと……?」

 奥川さんは、頭がついていってくれない私を見やると、かみ砕いて説明してくれた。

「学校の外でも、勉強の話をするのであれば、本人が望んで入学してきたんだろうね。そして、授業の内容を復習していたか、ついていけなかったから、友人に教えてもらっていたか――」

 私は、おばあ様の様子を思い出す。
 もっと、注意深く見ていれば良かった。
 ――話しかければ、良かった。

 ――そしたら、もう少し状況がわかったかもしれないのに。

「汐見さん、あまり落ち込まないで。それだけでも、手がかりになるからさ」

「……申し訳ありません……。……私……お役に立てなくて……」

 すると、頭に、覚えのある感触。
 そちらを見やれば、千谷沢さんが、綺麗な顔で微笑んでいた。

「気にするな。お前は、依頼人なんだし――それに、今は、被害者だろ」

「でも」

「大体、探すのは、オレ等の仕事だからな?」

 私は、その表情に見惚れてしまい、うなづくのが遅れてしまった。
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