私の恋を探してください
 私が、ありがたくコーヒーを空にすると、千谷沢さんが尋ねた。

「琴子――被害届、どうする?」
「え」
「痴漢のヤツ。まあ、警察行かなきゃだし、思い出したくも無ぇ事なら、無理して出さなくても良い。お前の気持ちが最優先だからな」
「……あ……ありがとうございます……」
 私は、頭を下げる。
 けれど――。
「あ、あの、でも……それで、あの痴漢が捕まえられるなら……」
 他の女性が被害に遭ったのかはわからないけれど、それでも、彼等に協力はしたいのだ。
 すると、千谷沢さんは、顔をしかめ、大きくため息をついた。

 ――せっかくの美貌が、台無しです……って、男性にそう言って良いものだろうか。

「あのな、琴子。痴漢なんて、ゴキブリと一緒。どれだけ叩いても、どこからか湧いて出てくるモンなんだよ」
「で、でも……」
「良いんだよ、琴子の気持ちが最優先。わざわざ、嫌な記憶を引っ張り出す事は無ぇよ」
「……あ……ありがとうございます……」
 千谷沢さんは、苦笑いで私を見やると、自分の分のコーヒーカップを口につけた。

「でも、まあ――出してくれた方が、正直動きやすくはあるだろうけどな」

「……そ、そうなんですね……」

「だから、オレも女装で囮になってるんだけど――」

「千谷は、むしろ、避けられるんだ」

「――え」

 奥川さんが、そう口を挟み、私はキョトンと返す。
「見ての通り、隙の無い”美人”よりは、オドオドして、大人しそうな女性。――そっちの方が、抵抗しないってわかってるからさ」
「……私が、そう、だと……」
 ――そう言われても、抵抗するという頭すら無いのに。
 奥川さんは、申し訳無さそうに続ける。
「気を悪くしたらゴメンね。――でも、汐見さんは、たぶんターゲットとして共有されてる」
「え」
「ああいう手合いは、裏で繋がってる事が多いんだ。どこ路線の何両目で、どの時間帯が、とか」
 私は、唇を噛む。

 ――何だか、悔しい。

 ――……けれど……あの集落で育ってきた私には、拒否する、とか、抵抗する、という選択肢が、真っ先に浮かばないのだ。

「でもな、琴子。お前が、最初にオレに助けを求めたから、警察の(ほう)も動けたんだ。だから、そう落ち込むな?」

 千谷沢さんは、そう言いながら、私の唇に手を伸ばす。

 ――え?

「ホラ、唇、血ィ出てるぞ」

 そして、彼は、何て事無いように、指でサッとこすった。

「……千谷、距離感」

 真っ赤になったっだろう私を、何だか不憫そうに見やりながら、奥川さんが、千谷沢さんに言った。

「……ああ、悪ィな、琴子」

「……汐見さん、千谷の感覚に慣れてくれると、助かるよ……」

「……ハ、ハイ……」

 おそらく、彼は、素なのだろう。
 眉を下げた奥川さんに、私は、少々引きつりながら、うなづいたのだった。


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