私の恋を探してください
翌朝、お昼用のおにぎりを作り終えると、ガタガタと物音がしたので、私は、慌てて玄関に向かう。
すると、父親が兄に支えられ、管を巻きながら入ってきた。
「お、お帰りなさい……」
「――何だ、琴子、いたのか」
相当飲んだのだろう。
赤い顔で睨みながら、父親は私に吐き捨てるように言った。
「……これから、大学に向かいます」
視線を下げてそう返すと、これ見よがしに舌打ちをされる。
「……さっさと行け」
父親は、兄の手を振り払うと、居間に入る。
今日はおそらく、田んぼの面倒は兄の役目だろう。
けれど、もう、あらかた仕事は譲っているので、あまり影響は無いはずだ。
兄が結婚したら、本格的に隠居するのかもしれない。
私達は、両親が四十歳を過ぎたあたりの子供なので、もう、二人とも良い歳なのだ。
「琴子、お前、週末に引っ越すんだよな。手伝いはいるのか」
「――いえ、大した荷物でもありませんので」
そう返せば、兄は、眉をしかめる。
「……ったく……勝も、こんな可愛げの無い女の、どこが良かったんだ」
――……私も、そう思う。
けれど、それは口に出さず、私は、さっさと家を出てバス停に向かった。
いつものように、一限目の授業を終えると、私は、進捗状況を報告しておこうと思い、鳥居教授の研究室まで向かった。
今日は、確か、午後から不在とあったので、今ならいるだろう。
ざわつく講義棟の中を、身を縮こませながら出て、教授の部屋までたどり着く。
そして、ドアをノックすると――
「ハイハイ。――あれ、汐見さん?」
「あ、お、おはようございます、町田先生」
顔を出したのは、鳥居教授ではなかった。
もしかして、不在だったのかと思っていたら、町田先生は、にこやかに私を中に招き入れる。
「鳥居教授は、今、事務の方に行ってるから、すぐ戻るよ。座って待ってたら?」
「あ、ありがとうございます……」
ソファに促され、私は、うなづく。
町田先生は、少々ソワソワしながら、向かいに座った。
「……あの……?」
「ああ、いや、汐見さんさ、この前の――千谷沢さん?ホラ、あの美人と知り合いなんだよね?」
身を乗り出して尋ねる町田先生の目は、かなりギラついている。
「え、あ……ハイ……」
「昨日、見たヤツがいてさ。彼女、卒業生って言ってたけど、ウチの大学の関係者?」
「――……あの……そ、そういう訳じゃ……」
町田先生の圧に押され、私は、引きつりそうになりながらも答えてしまう。
――あ、コレって、言わない方が良い事?
個人情報保護が叫ばれてかなり経っているけれど、集落にいると、そんなものは無いも同然。
まして、父親の元には、どこどこの息子が、先週、婚前旅行に行っただとか、どこどこの親子が昨日から喧嘩しているとか――あちこちの家の情報が、事細かに流れてくるのだ。
私が、その線引きに頭を悩ませていると、町田先生は、更に畳み掛けるように続けた。
「ねえ、汐見さん。今度、彼女連れてきてくれない?みんなで食事でもどう、とかって言ってさ」
「……えっと……」
「また始まったのかい、町田くん」
すると、諫めるような声が聞こえ振り返る。
そう言いながら、ドアを開けて入ってきたのは――あきれたような表情の、鳥居教授だった。
すると、父親が兄に支えられ、管を巻きながら入ってきた。
「お、お帰りなさい……」
「――何だ、琴子、いたのか」
相当飲んだのだろう。
赤い顔で睨みながら、父親は私に吐き捨てるように言った。
「……これから、大学に向かいます」
視線を下げてそう返すと、これ見よがしに舌打ちをされる。
「……さっさと行け」
父親は、兄の手を振り払うと、居間に入る。
今日はおそらく、田んぼの面倒は兄の役目だろう。
けれど、もう、あらかた仕事は譲っているので、あまり影響は無いはずだ。
兄が結婚したら、本格的に隠居するのかもしれない。
私達は、両親が四十歳を過ぎたあたりの子供なので、もう、二人とも良い歳なのだ。
「琴子、お前、週末に引っ越すんだよな。手伝いはいるのか」
「――いえ、大した荷物でもありませんので」
そう返せば、兄は、眉をしかめる。
「……ったく……勝も、こんな可愛げの無い女の、どこが良かったんだ」
――……私も、そう思う。
けれど、それは口に出さず、私は、さっさと家を出てバス停に向かった。
いつものように、一限目の授業を終えると、私は、進捗状況を報告しておこうと思い、鳥居教授の研究室まで向かった。
今日は、確か、午後から不在とあったので、今ならいるだろう。
ざわつく講義棟の中を、身を縮こませながら出て、教授の部屋までたどり着く。
そして、ドアをノックすると――
「ハイハイ。――あれ、汐見さん?」
「あ、お、おはようございます、町田先生」
顔を出したのは、鳥居教授ではなかった。
もしかして、不在だったのかと思っていたら、町田先生は、にこやかに私を中に招き入れる。
「鳥居教授は、今、事務の方に行ってるから、すぐ戻るよ。座って待ってたら?」
「あ、ありがとうございます……」
ソファに促され、私は、うなづく。
町田先生は、少々ソワソワしながら、向かいに座った。
「……あの……?」
「ああ、いや、汐見さんさ、この前の――千谷沢さん?ホラ、あの美人と知り合いなんだよね?」
身を乗り出して尋ねる町田先生の目は、かなりギラついている。
「え、あ……ハイ……」
「昨日、見たヤツがいてさ。彼女、卒業生って言ってたけど、ウチの大学の関係者?」
「――……あの……そ、そういう訳じゃ……」
町田先生の圧に押され、私は、引きつりそうになりながらも答えてしまう。
――あ、コレって、言わない方が良い事?
個人情報保護が叫ばれてかなり経っているけれど、集落にいると、そんなものは無いも同然。
まして、父親の元には、どこどこの息子が、先週、婚前旅行に行っただとか、どこどこの親子が昨日から喧嘩しているとか――あちこちの家の情報が、事細かに流れてくるのだ。
私が、その線引きに頭を悩ませていると、町田先生は、更に畳み掛けるように続けた。
「ねえ、汐見さん。今度、彼女連れてきてくれない?みんなで食事でもどう、とかって言ってさ」
「……えっと……」
「また始まったのかい、町田くん」
すると、諫めるような声が聞こえ振り返る。
そう言いながら、ドアを開けて入ってきたのは――あきれたような表情の、鳥居教授だった。