私の恋を探してください
 探偵事務所の最寄り駅に到着した私は、そのままホームに下り立ち、一安心。
 昨日の今日で、三回目の痴漢は、さすがに出ないとは思いたいけれど――。

「今日は、無事だったみたいですね」

「――え?」

 すると、後方から声がかかった気がして振り返ると、昨日、痴漢逮捕の時にいた女性警察官の方が、私の方に歩いて来た。

「あ……昨日は、ありがとうございました」

「いえ、無事で何よりです」

 彼女の、ショートカットより少し長めの髪が、発車した電車の風圧でなびいた。
 それに思わず見惚れてしまう。

 ――……綺麗な女性(ひと)

 彼女が纏う空気は、千谷沢さんに近いものを感じる。

「こちら、最寄り駅なんでしょうか?」

「え、あ……いえ、所用で……」

 まるで、取り調べが始まるような空気に、一瞬、身構えてしまった。
「おい、棚橋。お嬢ちゃん、ビビってんだろ」
 そう言いながら、私達よりも頭二つほど高い身長の男性が、やってきた。
 私は、一歩後ずさってしまう。
神子沢(みこさわ)先輩」
 女性警察官――棚橋さんは、眉を寄せて彼を見上げた。
「先輩の方がビビらせてますが」
「まあまあ、ゴメンね、ウチのお嬢が」
「先輩!その呼び方はやめてくださいって、何度言ったら……!」
「別に、ウチの課じゃ、みんな呼んでるんだから、良いじゃないか。すぐに、女性差別とか言い出すんだからなぁー」
「先輩!!」
 彼は、軽く受け流すと、苦笑いしながら、私に言った。
「キミ、碧と颯介の依頼人でしょ」
「――え……っと……」
 これは、言っても良いのだろうか、と、迷っていると、彼は、ニカリ、と、歯を見せて笑った。
「アイツ等に仕事繋いでるの、おれなんだー」
「――あ……」
 そう言えば――探偵を始めてから、警察の方からの依頼だけだったと言っていた。
 私は、それを聞き、信用に足る人達だと思い、うなづいた。
「――先日、依頼をいたしました」
「そっか、アイツ等、どんな?ちゃんとできてる?」
「……頼りにしております」
 神子沢さんは、一瞬目を丸くするが、すぐにうれしそうに笑って返す。
「そっか、良かった。まあ、至らぬ点はあると思うけど、見捨てないでやってくれるとありがたいかな」
「承知いたしました」
 私は、頭を下げて、そう返した。
 そして、顔を上げると、二人の微妙な表情。

 ――……まるで、鳥居教授のよう。

「あ、いや……よろしくお願いします」

 私につられたのか、神子沢さんも、頭を下げて返す。
 それを見ていた棚橋さんは、あきれたように彼に言った。
「先輩、どう見たって年下の女性に、何、気圧(けお)されてるんですか」
「え」
「い、いや、でも、仕方ないだろ!何か、オーラあるじゃん!」
 二人の言い合いに、私は、対応に悩んでしまう。
 けれど、ホームの上にある時計に目をやると、私は頭を下げた。
「申し訳ありません、少々急いでおりますので、これで――」
「あ、ああ、ハイ。ゴメンね、引き留めちゃって」
「いえ、では、失礼いたします」
 そう言って、二人に背を向けると、私は、ホームから改札に向かう階段を下りて行った。
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