私の恋を探してください
奥川さんは、私の前のソファに腰を下ろすと、こちらをうかがうように、のぞき込んだ。
「汐見さんは、おばあ様とは、いつも、どんな感じの話をしているのかな?」
「――え、あ……どんな、と言っても……」
その日、その日で、話す事は、まるで統一感の無い世間話。
それでも、昔は、おばあ様が教えてくれる事が楽しくて――世界が広がった気がしたものだ。
「……他愛無い話です。……特に、相談がある訳でも無いですし……」
「それは、初めから?」
「え?」
「施設に入った当初、帰りたい、とか、無かった?」
私は、記憶をたどってみるが――そんな話を聞いた記憶は、まったく無かった。
首を振って返すと、奥川さんは、私をジッと見つめる。
その視線は――何かを探られているようで、落ち着かない。
「……施設に、他の家族の方は?」
「……最初に、家族全員で面会に行って――以降は、私が主に。父親は、まったくで――細々としたものは、母親が届けていたかと。――兄は、父親と同じです」
「おばあ様と仲が良い人とかは?」
「……どうでしょう……。ご友人がいると話は、聞いた事はありませんが……」
「じゃあ、施設の中でも、親しい方も?」
「――……ご近所付き合い程度のような感じかと……」
私が答え終わると、奥川さんは、自分の分のコーヒーを口にする。
そして、テーブルに置かれたカップに視線を向けた。
「どうぞ、汐見さん。コーヒー冷めるよ」
「あ、ハ、ハイ」
残念だけれど、芸術というものは、崩れてから価値がある――なんて、誰かが言っていた気がする。
ためらいがちにカップに口を付けると、今度は、コーヒーのかぐわしい香りと苦さ、ミルクの甘さが次々とやってきて、ほう、と、ため息をついた。
「――美味しい、です」
「良かった」
すると、奥川さんは、スッと手を伸ばしてきた。
「――え」
その手には、ティッシュボックス。
「どうぞ。口の周り、ミルクがついてるよ?」
「――……っ……あ、ありがとうございますっ……!」
私は、真っ赤になって、ありがたくティッシュを引き出すと、口を押さえた。
――ああ、恥ずかしい!!
けれど、奥川さんは、クスリ、と、笑うだけだ。
それが、かえって恥ずかしさを増した。
「颯介ー、戻ったぞ……」
すると、勢いよくドアが開き、いつもの――と、言って良いのかはわからないが――女装姿の千谷沢さんが、入ってきた。
「――琴子?」
「あ、お、お邪魔しております……」
私は、立ち上がると彼に頭を下げる。
「どうした、何かあったのか?」
彼はいぶかしそうに私に尋ねると、奥川さんに視線を移した。
「千谷の言葉を、素直に聞いた結果」
「――は?」
「あ、あのっ……おばあ様の事、話していたら、何か思い出すのでは、と……」
千谷沢さんは、一瞬、何の事かという表情を見せたが、すぐに笑った。
「何だ、そういうコトな」
そう言うと、彼は、私の隣に腰を下ろし、のぞき込んでくる。
「ち……!」
「じゃあ、話せよ、琴子。――ばあ様との思い出話」
「汐見さんは、おばあ様とは、いつも、どんな感じの話をしているのかな?」
「――え、あ……どんな、と言っても……」
その日、その日で、話す事は、まるで統一感の無い世間話。
それでも、昔は、おばあ様が教えてくれる事が楽しくて――世界が広がった気がしたものだ。
「……他愛無い話です。……特に、相談がある訳でも無いですし……」
「それは、初めから?」
「え?」
「施設に入った当初、帰りたい、とか、無かった?」
私は、記憶をたどってみるが――そんな話を聞いた記憶は、まったく無かった。
首を振って返すと、奥川さんは、私をジッと見つめる。
その視線は――何かを探られているようで、落ち着かない。
「……施設に、他の家族の方は?」
「……最初に、家族全員で面会に行って――以降は、私が主に。父親は、まったくで――細々としたものは、母親が届けていたかと。――兄は、父親と同じです」
「おばあ様と仲が良い人とかは?」
「……どうでしょう……。ご友人がいると話は、聞いた事はありませんが……」
「じゃあ、施設の中でも、親しい方も?」
「――……ご近所付き合い程度のような感じかと……」
私が答え終わると、奥川さんは、自分の分のコーヒーを口にする。
そして、テーブルに置かれたカップに視線を向けた。
「どうぞ、汐見さん。コーヒー冷めるよ」
「あ、ハ、ハイ」
残念だけれど、芸術というものは、崩れてから価値がある――なんて、誰かが言っていた気がする。
ためらいがちにカップに口を付けると、今度は、コーヒーのかぐわしい香りと苦さ、ミルクの甘さが次々とやってきて、ほう、と、ため息をついた。
「――美味しい、です」
「良かった」
すると、奥川さんは、スッと手を伸ばしてきた。
「――え」
その手には、ティッシュボックス。
「どうぞ。口の周り、ミルクがついてるよ?」
「――……っ……あ、ありがとうございますっ……!」
私は、真っ赤になって、ありがたくティッシュを引き出すと、口を押さえた。
――ああ、恥ずかしい!!
けれど、奥川さんは、クスリ、と、笑うだけだ。
それが、かえって恥ずかしさを増した。
「颯介ー、戻ったぞ……」
すると、勢いよくドアが開き、いつもの――と、言って良いのかはわからないが――女装姿の千谷沢さんが、入ってきた。
「――琴子?」
「あ、お、お邪魔しております……」
私は、立ち上がると彼に頭を下げる。
「どうした、何かあったのか?」
彼はいぶかしそうに私に尋ねると、奥川さんに視線を移した。
「千谷の言葉を、素直に聞いた結果」
「――は?」
「あ、あのっ……おばあ様の事、話していたら、何か思い出すのでは、と……」
千谷沢さんは、一瞬、何の事かという表情を見せたが、すぐに笑った。
「何だ、そういうコトな」
そう言うと、彼は、私の隣に腰を下ろし、のぞき込んでくる。
「ち……!」
「じゃあ、話せよ、琴子。――ばあ様との思い出話」