私の恋を探してください
 翌朝、静かな家の中で、一人、朝食を食べながら、私は、頭を悩ませていた。

 ――勝兄さんは、ああ言ってくれたけれど――……兄さんも、素直に教えてくれるか、わからないのだ。

 食器を片づけ、お昼用のおにぎりを握ると、バッグに入れる。
 そして、支度を終え、玄関を出ると、バス停へと歩き始めた。
 その間も、頭の中は、おばあ様の事だけだ。

 ――図らずも、昨日、奥川さんに覚悟がいるような事を言われたばかりだったから……最悪な状況しか思い浮かばなくなってしまったのだ。

 私は、頭を軽く振ると、足を進める。
 バス停に到着すると、すぐに始発のバスがやって来たので、それに乗り込んだ。
 いつもの運転手さんに挨拶をすると、駅までの数十分、スマホと睨み合い続ける。

 ――この状況は……あの二人に伝えた方が良いとは思うけれど……。

 おばあ様の入院先がわからない以上、初恋の人が見つかったとして、どうやって会わせたら良いのだろうか。

 私は、ため息をつくと、バッグにスマホを片づける。
 そして、窓の外を見やると、浮かんできた涙をこらえるように、唇を噛みしめ続けた。


 大学での授業も、半分は上の空。
 さすがに、昨夜の今では、集中できるはずもない。
 私は、沈んだまま、手元のノートを片づける。
 すると、不意に、一昨日、千谷沢さんと会話したメモ帳がバッグから落ちてきたので、急いで拾った。

 ――意外と綺麗な字。

 彼と”会話”を終えた時、何となく思った。
 いつもの、豪快で大ざっぱな言動からは、あまり想像がつかないほどの、整った字。
 私は、無意識に口元を上げた。

 ――何かあったら、連絡。

 そう、最後に書かれた文字。
 私は、それを見やり、バッグからスマホを取り出すと、足早に教室を出たのだった。


 人気(ひとけ)の無い場所というものは、なかなか見つからず、私は、仕方なく鳥居教授の研究室(へや)をノックした。

「おや、汐見さん。最近良く来るねぇ」

「も、申し訳ありません。……少し……で、電話をさせていただいても、よろしいでしょうか……?」

「――ん?」

 さすがに、この申し出に、教授も目を丸くする。

「電話?――ボク、いてもいいもの?」

「あ、えっと……ハイ」

 そして、私の態度に違和感を持ったのか、そう尋ねてきたので、一瞬考えたがうなづいた。
 部屋の主を追い出してまで電話をしようというのなら、それは、最初から大学(がっこう)の外に出れば良いのだ。
 けれど、できれば、一刻も早く、彼等に連絡を取りたいのだ。
 私は、部屋の隅で、教授に背を向けながら、探偵事務所の電話番号を押した。
< 58 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop