私の恋を探してください
「汐見さん」
「琴子!」

 エレベーターから降りてきた私に気づいた探偵二人は、駆け足でやってきて――そして、次に続く言葉を飲み込んだ。

「――琴子」

 ボロボロとこぼれてくる涙をそのままに、私は、唇を噛みしめ、嗚咽を堪える。
 すると、フワリ、と、覚えのある香りに包まれ、顔を上げた。

「千谷沢さん」

 彼は、私をそっと抱き寄せてくれていた。

 ――ああ、だから、女装、なのか。

 きっと、私がこんな風になる可能性を考えていたのだろう。

「――千谷、沢、さ……っ……!」

 その温もりに、涙腺が役目を放棄した。

「――……話は後だ。……ウチに帰るか、琴子」

 千谷沢さんの言葉に、かすかにうなづけば、そのまま背中を優しく叩かれた。
 そして、彼は、そっと私の左手を握ると、まるで、迷子になった子供を連れるように、歩き出す。
 私は、空いた右手で、止まる事の無い涙を拭い続けながら、彼についていく。
 奥川さんは、何も言わずに、その後をついてきてくれた。
 そのまま風防室に出ると、不意に、千谷沢さんの足が止まり、私は顔を上げる。

「……千谷沢さん……?」

 涙を雑に拭いながら彼を見上げるが、その肩越しに見えた肉眼でも見えるような、大きな雨粒に驚く。
 彼は、少々、引きつりながら、隣に来た奥川さんに言った。

「……颯介、何か、外荒れてねぇ?」

「――見ての通りでしょ、天気予報確認してみるよ」

 奥川さんは、そう言ってスマホを操作すると、少々苦々しい表情になった。

「……マズいね……大雨警報出てるよ。たぶん、このままだと、暴風警報も出そうだね」

 私は、ギョッとすると、慌てて自動ドアから出る。

 ――このままじゃ、帰れなくなる!

「あ、おい、琴子!」
「汐見さん!」

「きゃっ……!」

 けれど、それと同時に、身体が風にあおられ、思い切りよろめいた。

「琴子!!」

 千谷沢さんは、私を片腕で軽々と支えると、そのまま抱きかかえる。

「――……っ……!!」

「大丈夫か?」

 彼の腕の中で、私は、完全に固まってしまい、コクコクとうなづくだけだ。

 ――女性の姿なのに――力は、男性。

 頭の中がパニックになりそうな私に、彼は、あっさりと続けた。

「琴子、どうする。――たぶん、電車、止まってるぞ、コレ」

「――……あ……」

「この分じゃ、山の方は危険かもしれねぇし」

 私は、風の音を聞きながら、視線を下げた。

 ――おそらく、こういう荒れた天気の時対する注意は、一番払っているはずだ。

 ――だからと言って、集落が安全という保障は無い――けれど。

 脳裏をよぎるのは、怒り心頭になっている父親の姿だ。

「……でも……やっぱり……帰らないと、父親が怒り狂うので……」

「――は?」

 あからさまに不機嫌な声音に顔を上げれば、至近距離の美貌が、顔を歪めていた。

 ――ああ、何てもったいない。

 そんな風に思考がズレてしまうが、仕方ない。

 未だに包まれている彼の温もりで、身体全体が沸騰しそうなのだ。

「お前な、この状態で、どうやって帰る気だよ。電車なんて動いてねぇだろ」

「――でも……」

「緊急事態なんだぞ。この時間なんだし、こっちで泊まるしかねぇだろうが」

 ――……え……。

 私は、彼の言葉に目を丸くした。

「――い、いえ、あの、私、外泊とか許可も無くできないので……」

「ハァ⁉ンなコト言ってる場合じゃねぇだろ⁉」

 目を剥いた千谷沢さんに、私は一瞬、肩を震わせる。
 姿は女性でも、他は男性仕様なのだ。
 すると、不意に、彼の温もりが消え、顔を上げた。


「――千谷、いい加減にしろ。汐見さんが怯えてる」


 すると、珍しく――いや、初めてみる、怒りをあらわにしている奥川さんが、千谷沢さんの腕を取っていた。

「……悪い」

 その気迫に、千谷沢さんは私から距離を取ると、バツが悪そうに謝った。

「悪い、琴子。――つい」

 私は、それに首を振って返す。


 怯えてしまったのは、事実だけれど――それでも、彼の温もりを名残惜しく思う気持ちの方が強かった。

 ――……その気持ちを、どう捉えれば良いのか――。

 私には、まだ、見当もつかなかった。
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