私の恋を探してください
 まだ強風が吹き荒れている中、私達は事務所にたどり着いた。
 中に入ると、奥川さんが、サッと中の説明をし、薄い毛布を取り出してくる。
 どうやら、常備しているらしい。

「じゃあ、汐見さん、何かあったら、何時(いつ)でも良いから連絡ね。暑かったり寒かったりしたら、エアコンつけて良いから」

「ハイ。ありがとうございます」

「あと、僕等が出たら、すぐに鍵かけて」

「わかりました」

 私がうなづいて返すと、千谷沢さんは、軽く頭を叩いた。

「一応、不自由は無ぇはずだから、気にせず休めよ」

「ハイ」

 二人は、うなづくと、事務所を後にする。
 すぐ近くにアパートを借りていて、一緒に住んでいるとの事だ。
 私は、彼等が去った後、言われた通りに、すぐに鍵をかけた。
 何かあったら、すぐに駆け付けられるくらいの距離という事なので、少しは安心できた。
 私は、大きく息を吐くと、部屋を見回す。
 こんな風に、急きょ泊まる、などという経験など、初めて――というか、そんな機会すら無かった。
 どこか、罪悪感を覚えはするが、同じように、どこかで高揚感も。
 私は、ギュッと、胸元を握り締め、部屋を見回す。

 ――心臓が、バクバクと音を立てる。

 室内の静けさと相反するように、外からは、雨風の音が止む事なく聞こえてくるが、何故か、不安は感じられなかった。
 貸してもらった毛布を握り締めると、大きく息を吐いた。

 ――……初恋の人を見つけ出すまで――おばあ様はもって(・・・)くれるだろうか。

 こんな事なら――いっそ、直接伝えておけば良かった。
 ――おばあ様なら、きっと、困ったように笑って――そして、言うに違いない。


 ――琴ちゃんの、好きにしたら良いからね。


 私は、にじんできた涙をこすると、ソファをベッド代わりに横になった。
 そして、毛布を肩までかけ、現実から逃れるように、目を閉じた。



 ――おばあ様、それは、何ですか?

 薄暗く、日中ですら日の差さない蔵の中。
 幼い私が、おばあ様に尋ねている。

 ――それは、いつかの記憶。
 ――もう、うっすらとしか思い出せないような。

 おばあ様の手には、厚紙でできた小さな箱。
 蔵のどこかから持ってきたのだろう。

 ――これはねぇ……おばあの、大事なものが入っているんだよ。

 そう言いながら、おばあ様は、箱をそっと開けると、そばでのぞき込む私を見やる。
 おぼろげな記憶なせいか、中の様子までは、ハッキリと写らなかったけれど――紙のようなものか。
 箱の強度を考えれば、そうそう重い物など入れられないだろう。

 ――大事なもの、ですか?

 ――そう。
 ――いつか、おばあがいなくなったら、琴ちゃんが見ても良いからね。

 私は、その言葉に、大きく目を見開き、おばあ様を見つめる。

 ――おばあ様……いなくなるのですか……?

 震える声で尋ねると、おばあ様は、困ったように微笑む。

 ――まだまだ先の話だよ。
 ――琴ちゃんが、もっと大きくなって、幸せになったのを見届けたら、おばあは、天国に行くからね。

 私は、幼心に、それはもう、抗えないものなのだと悟る。
 おばあ様から目を逸らさず、コクリ、と、うなづくと、優しく頭を撫でられた。

 ――聞き分けが良いのは、琴ちゃんの良いところで、悪いところだねぇ……。

 ――ごめんなさい。

 悪い事だったのか、と、眉を下げて謝ると、おばあ様は首を振る。

 ――ああ、ごめんねぇ、琴ちゃん。
 ――……おばあは、いつか、その聞き分けの良さが、琴ちゃんを縛るような気がして、心配なだけだよ。

 おばあ様は、私の両肩を、ポンポン、と、叩く。

 ――琴ちゃん。
 ――いつか、琴ちゃんが、自分でやりたいと思った事ができたのなら、何も気にせずに挑戦するんだよ。
 ――家中――集落中が反対したって、おばあは味方だからね。

 私は、あまり意味がわかってはいなかったけれど、おばあ様の言う事が間違っていた事は無いのだから、と、うなづいた。

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