私の恋を探してください
2.完全に、見た目と中身がバグってるんですが
 真っ暗になった無人駅にたどり着いた私は、改札を出ると、こちらへ向かって来るミニバンに気づく。
 そして、車は、ロータリーへと入り、すぐ先の駐車エリアに停まった。

「遅かったな、琴子」

「――ごめんなさい、ありがとう、兄さん」

 車から降りてきた、私よりも更に二十センチほど大きな男性は、そう言って、眉を寄せて見下ろしてきた。

 十一歳上の兄――真人(まさと)だ。

「大学の授業が遅くなったんなら、仕方ない。――今は、女だって、学歴が必要なんだから」

 あっさりと、女性団体が血相を変えそうな発言をすると、兄は、私のバッグを奪い取って、後部座席に投げた。

 兄も、父も――昔からの男尊女卑とも言える考え方を、まったく変えない。

 今は、そんな時代ではないと、大学受験を考えた時、説得しようとしたけれど――結局、耳を貸さず。
 母は、父の言いなりなので、私の訴えなど、空気のようにスルーしていた。

 そんな中、おばあ様だけが、味方だった。

 ――琴子の意思を、尊重しなさい。

 前総代の威厳に気おされ、渋々納得した父親は、それでも、テレビで何かを吹き込まれたのか、女も大学を出ていた方が良い時代なんだな、と、手のひらを返したのだ。
 けれど――進学の条件は、家から通う事。
 私の行きたかったN大は、片道二時間半以上かかる。
 もしかしたら、あきらめさせようとしているのかもしれない。
 そう思ったら、意地になってしまった。

 昔から、娯楽と言えば読書だけだった私は、山のように古い本が埋まっている家の蔵へ、子供の頃から出入りしていた。
 その蔵書は、すべて、おばあ様のもの。
 そして――時間が許す限り、私はそれを読み漁り、もっと、いろんな事を知りたいと思ったのだ。


「着いたぞ、琴子」

「え、あ」

 怒涛の展開で疲労が蓄積していたのか――いつの間にか、眠っていたようだ。
 兄は、さっさと車を降り、門を閉める。
 最近は物騒な世の中なので、集落でも、夜は門を閉めて、玄関に鍵をかけるように通達をしたのだ。

「――ただいま帰りました」

「遅い!何時だと思ってる!」

 居間でテレビを観ていた父は、障子戸を開き顔を出すなり、険しい表情で怒鳴った。

「……申し訳ありません」

 私は、土間で頭を下げると、そのまま台所に行き、手を洗ったり、置いてあった夕飯を温める。
 居間から聞こえる笑い声をBGMに、私は、今日のおかず――鮭の塩焼きと、煮物に手をつけた。
 夕飯とお風呂を終えると、もう、就寝時間だ。
 家での勉強など、三十分もできない。
 なので――もっぱら、乗り物の中で勉強している状態だ。

 ――……一人暮らしができたら……もう少し、家でも勉強できるのに……。

 そうは思っても、大学進学でさえ渋い顔をされたのだ。
 一人暮らしなど、勘当と同じだろう。

 私は、布団に潜り込み目を閉じ――そして、千谷沢さんの腕の感触と香りを思い出し、飛び起きた。


 ――本当に――心臓が、口から飛び出る、コレ!


 一体、自分の身体がどうなってしまったのかは、わからないけれど――ひとまず、起きたら死んでいる事の無いように祈りながら、眠りについた。
< 7 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop