私の恋を探してください
そろそろ駅に向かわないといけない時間になり、私は、ソファで、買って来たおにぎりを頬張っている千谷沢さんと、コーヒーをゆっくりと口にしている奥川さんを見やった。
「あ、あの、そろそろ大学に行かないとなので……」
「ん――」
「そう、気をつけてね。道は大丈夫?」
「ハイ。お気遣い、ありがとうございます」
奥川さんに確認するように言われ、私はうなづいた。
ここは、そこまで時間がかかるような場所でも無ければ、複雑に入り組んだところでも無い。
「ちょっと待て、琴子!」
「え?」
すると、千谷沢さんに呼び止められ、ドアノブに手をかけていた私は、振り返った。
彼は、ペットボトルのお茶を一気に流し込むと、ソファから立ち上がる。
「送る」
「――え」
「また、痴漢に遭ったなんてコトになったら、たまったモンじゃねぇだろ」
私は、慌てて首を振った。
「だ、大丈夫、です……!そこまで、ご迷惑はおかけできません」
「良いから。トラウマで電車に乗れなくなったら、お前、致命傷だろ」
「――でも」
確かに――今の私には、電車が主な移動手段で、それが使えないとなったら、今度こそ、どこにも行けなくなってしまう。
「千谷、こっちも仕事残ってるの、わかってるよね?」
「わかってる。――とりあえず、いつもの駅まで一緒に乗っていくだけだ。ついでに、朝の見回りもしておくから」
千谷沢さんは、奥川さんにそう言うと、すぐに、私の元にやって来た。
「行くぞ、琴子」
「――あ……」
私は、戸惑いながらも、彼を見やる。
――その手は、しっかりと、私の手を握っていた。
それは、きっと、無意識で――幼い子供を連れて行くような感覚なのだろう。
けれど、大きな手の温もりに、心臓が爆発しそうになる。
「――千谷、ほどほどにしておけよ」
「……何がだよ」
奥川さんは、コーヒーを口にすると、申し訳無さそうに私を見やり、千谷沢さんに言ったのだった。
そのまま、他愛無い話を振ってくる千谷沢さんに、ボソボソと最低限に返しながら、駅に到着する。
通勤時間に被ってしまったのか、ホームに到着した電車は、車両すべてが満員の状況だった。
「――琴子、乗れるか」
「……の、乗れます」
表情を引き締め、覚悟を決める。
満員電車では、繰り返し痴漢に遭ってしまった記憶が残っているので、一瞬、腰が引けたが、ここで乗らない訳にもいかない。
「じゃあ、オレから離れるなよ」
「……ハ、ハイ」
まるで、口説き文句のようなセリフを、真顔で言われ、反応に困った。
――もう、彼の一言一句に、心臓が過剰反応している。
――深い意味など、まったく無いのは、短い付き合いでも、理解しているはずなのに。
何とか、気づかれないように深呼吸を繰り返す。
千谷沢さんは、車両を見やると、後方へと私を引き連れ歩き出した。
「あっち、まだ、空いてそうだぞ」
「あ、ハ、ハイ」
車両に乗り込むと同時に、発車のベルが鳴り出す。
私達は、慌てて駆け込んでくる人達に、真ん中まで押し込まれた。
「琴子、こっち来い」
「ハ、ハイ」
すると、千谷沢さんに腕を取られたかと思うと、彼の胸の中に引き寄せられる。
周囲をチラリと見回せば、みんな背の高い男性会社員ばかり。
それぞれが、あちらこちらに視線を向けてはいるけれど、その手が、どこにあるのかまでは確認できなかった。
「――少し、我慢しとけ」
すると、不意打ちで耳元をかすめる、ややハスキーな声に、肩が震える。
私は、何度もうなづくと、視線を下げた。
鼻腔をくすぐる彼の香りに、頭が真っ白になりそうだ。
――もう、これ以上は考えない方が良いかもしれない。
そう思い、私は、電車が大学の最寄り駅に到着する間、今日の講義の予習を頭の中で繰り広げたのだった。
「あ、あの、そろそろ大学に行かないとなので……」
「ん――」
「そう、気をつけてね。道は大丈夫?」
「ハイ。お気遣い、ありがとうございます」
奥川さんに確認するように言われ、私はうなづいた。
ここは、そこまで時間がかかるような場所でも無ければ、複雑に入り組んだところでも無い。
「ちょっと待て、琴子!」
「え?」
すると、千谷沢さんに呼び止められ、ドアノブに手をかけていた私は、振り返った。
彼は、ペットボトルのお茶を一気に流し込むと、ソファから立ち上がる。
「送る」
「――え」
「また、痴漢に遭ったなんてコトになったら、たまったモンじゃねぇだろ」
私は、慌てて首を振った。
「だ、大丈夫、です……!そこまで、ご迷惑はおかけできません」
「良いから。トラウマで電車に乗れなくなったら、お前、致命傷だろ」
「――でも」
確かに――今の私には、電車が主な移動手段で、それが使えないとなったら、今度こそ、どこにも行けなくなってしまう。
「千谷、こっちも仕事残ってるの、わかってるよね?」
「わかってる。――とりあえず、いつもの駅まで一緒に乗っていくだけだ。ついでに、朝の見回りもしておくから」
千谷沢さんは、奥川さんにそう言うと、すぐに、私の元にやって来た。
「行くぞ、琴子」
「――あ……」
私は、戸惑いながらも、彼を見やる。
――その手は、しっかりと、私の手を握っていた。
それは、きっと、無意識で――幼い子供を連れて行くような感覚なのだろう。
けれど、大きな手の温もりに、心臓が爆発しそうになる。
「――千谷、ほどほどにしておけよ」
「……何がだよ」
奥川さんは、コーヒーを口にすると、申し訳無さそうに私を見やり、千谷沢さんに言ったのだった。
そのまま、他愛無い話を振ってくる千谷沢さんに、ボソボソと最低限に返しながら、駅に到着する。
通勤時間に被ってしまったのか、ホームに到着した電車は、車両すべてが満員の状況だった。
「――琴子、乗れるか」
「……の、乗れます」
表情を引き締め、覚悟を決める。
満員電車では、繰り返し痴漢に遭ってしまった記憶が残っているので、一瞬、腰が引けたが、ここで乗らない訳にもいかない。
「じゃあ、オレから離れるなよ」
「……ハ、ハイ」
まるで、口説き文句のようなセリフを、真顔で言われ、反応に困った。
――もう、彼の一言一句に、心臓が過剰反応している。
――深い意味など、まったく無いのは、短い付き合いでも、理解しているはずなのに。
何とか、気づかれないように深呼吸を繰り返す。
千谷沢さんは、車両を見やると、後方へと私を引き連れ歩き出した。
「あっち、まだ、空いてそうだぞ」
「あ、ハ、ハイ」
車両に乗り込むと同時に、発車のベルが鳴り出す。
私達は、慌てて駆け込んでくる人達に、真ん中まで押し込まれた。
「琴子、こっち来い」
「ハ、ハイ」
すると、千谷沢さんに腕を取られたかと思うと、彼の胸の中に引き寄せられる。
周囲をチラリと見回せば、みんな背の高い男性会社員ばかり。
それぞれが、あちらこちらに視線を向けてはいるけれど、その手が、どこにあるのかまでは確認できなかった。
「――少し、我慢しとけ」
すると、不意打ちで耳元をかすめる、ややハスキーな声に、肩が震える。
私は、何度もうなづくと、視線を下げた。
鼻腔をくすぐる彼の香りに、頭が真っ白になりそうだ。
――もう、これ以上は考えない方が良いかもしれない。
そう思い、私は、電車が大学の最寄り駅に到着する間、今日の講義の予習を頭の中で繰り広げたのだった。