恋が終わる音がきこえた
「佐々木さんってさ、去年も学級委員だったよね?」

職員室へ向かう廊下で、
隣を歩く神崎くんがふと口を開いた。

「あ、うん」

「やっぱり。なんか慣れてる感じした」

そう言って笑う横顔に、
少しだけ目を奪われる。

窓から入る春の光が、
やけに似合って見えた。

「……でも、本当はあんまり向いてないんだけど」

ぽつりと呟くと、

「え、そうなの?」

神崎くんが意外そうにこっちを見る。

「人前とか得意じゃないし」

「全然そう見えなかった」

「よく言われる」

昔から、
“しっかりしてる”って勝手に思われることが多い。

頼られるのは嫌いじゃないけど、
期待されると断れなくなる。

「でも、助かった。」

「え?」

「佐々木さんと一緒でよかった」

さらっと言われたその言葉に、
心臓が変に跳ねた。

「……そんな大したことしてないよ」

誤魔化すように前を向く。

すると神崎くんは、
少し困ったみたいに笑った。

「そういうとこだよね。」

「?」

「頑張ってるのに、
自分では普通って思ってるとこ。」

不意にそんなことを言われて、
言葉が止まる。

その時だった。

「おーい神崎ー!」

前から男子が手を振りながら近づいてくる。

神崎くんは「あ、ごめん」と笑って、
そのまま自然に輪の中へ入っていった。

すぐにみんなの中心になる姿を見ながら、
私は小さく息をつく。

——やっぱり、
遠い人だな。

そう思った。

ーーーー

放課後。

校門を出た瞬間、

「ねえ美緒。」

隣を歩いていた姫香が、
やけに真剣な声を出した。

「……なに?」

「私ね。」

そこで一回言葉を切って、
照れたみたいに笑う。

「神崎くんのこと好きかも。」

その言葉に、
胸が小さく跳ねた。

でも私は、
できるだけ普通に笑ってみせる。

「早くない?」

「だってかっこよかったじゃん!」

姫香は両手で頬を押さえながら、
ふにゃっと笑う。

「しかも優しいし!
 絶対モテるタイプ!」

「まあ、それはわかるけど」

「でしょ!?」

楽しそうに話す姫香を見て、
私は小さく笑った。

——本当に、
楽しそうだった。

「応援してね、美緒。」

その一言に、
足が止まりそうになる。

けれど姫香は気づかないまま、
前を向いて歩き続ける。

「美緒がいると頑張れるし!」

無邪気に笑う横顔を見ながら、
私はゆっくり息を飲み込んだ。

“応援して”。

たったそれだけなのに、
どうしてこんなに苦しいんだろう。
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