恋が終わる音がきこえた
昼休み。

教室は騒がしくて、
みんなそれぞれ固まって話していた。

私は机でお弁当を広げていたけど、
ふと視線を上げる。

教室の前の方。

姫香が、颯太と並んで立っていた。

プリントを手に持って、
何か話している。

「これってさ〜」

姫香が笑っている。

颯太は少しだけ困ったように見て、
それから小さく頷いた。

「……あ、そういうことか」

「でしょ〜?」

軽い笑い声。

それだけ。

特別なことは何もないのに、
目が離せなかった。

「美緒〜!」

呼ばれて顔を上げると、
姫香がいつもの笑顔で戻ってきた。

「お弁当一緒に食べよ!」

「……うん」

返事をしながら、
さっきの光景を見なかったふりをした。


「お弁当一緒に食べよ!」

「……うん」

席を少しずらして、
姫香が隣に座る。

いつも通りの距離なのに、
なぜかさっきの光景が残っていた。

「ねえ見て、美緒のおかずこれおいしそう」

「それ、昨日の残り」

「え〜最高じゃん」

姫香は楽しそうに笑って、
お箸を動かす。

「さっきさ」

急に姫香が思い出したように言う。

姫香が思い出したように言う。

「そうたくんと話しててさ」

「……うん」

「やっぱ優しいよね」

「……うん」

私はお弁当に視線を落とした。

姫香は気づかないまま、
また違う話を始める。

そうたくんさ、ほんと優しいよね」

「……うん」

返事をしながら、
お弁当を見つめる。

味はちゃんとあるのに、
少しだけ遠く感じた。

「美緒?」

「え?」

「どうしたの?」

「なんでもない」

笑ってごまかすと、
姫香はすぐに話を戻した。

「ねえ放課後さ、また委員会あるんだよね」

「うん」

「じゃあまたそうたくんと一緒じゃん」

その言葉に、
一瞬だけ間が空く。

「そうだね」

それだけ言って、
お弁当箱に視線を落とした。

ーーーー

放課後。

教室の窓から、
少しだけ夕方の光が入っていた。

「じゃあ、行こうか」

神崎くんの声に、
私はうなずく。

「うん」

プリントの束を持って、
二人で教室を出る。

廊下は静かで、
足音だけがやけに響いた。

「姫川さんって元気だよね」

そうたくんがぽつりと言う。

「ずっとあんな感じなの?」

「うん、だいたい」

「いいね」

その言葉に、
なぜか少しだけ引っかかった。

「……そう?」

「うん。明るい人って、すごいと思う」

そうたくんはそれだけ言って、
また前を向く。

私は返事ができないまま、
プリントを持ち直した。

廊下の窓の外では、
夕方の空がゆっくり色を変えていた。

廊下の突き当たりで、
階段の方へ曲がる。

「ここで合ってる?」

そうたくんがプリントを見ながら言う。

「うん、職員室」

「了解」

短いやり取りのまま、
また歩き出す。

階段を降りる足音だけが響く。

その途中で、
そうたくんがふと立ち止まった。

「佐々木さんってさ」

「……なに?」

振り返ると、
少しだけこちらを見ている。

「ちゃんとしてるよね」

「またそれ?」

思わず小さく笑ってしまう。

「いや、なんか」

そうたくんは少し困ったみたいに笑う。

「周り見えてる感じする」

「そんなことないよ」

すぐに返したけど、
自分でも少しだけ声が弱い気がした。

「そう?」

「うん」

それだけ言って、
また歩き出す。

階段の窓から見える空が、
さっきより少し暗くなっていた。
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