執拗な恋、夜を飲み干す。
「いつも仕事終わりに来られるんですか?」

「ええ…、終わってすぐ…」


 こんな他愛のない会話なら、彼はしてくれる。だけど、それ以上は続かない。パスを投げてくれているのに、打ち返せない私に問題がある。

 そんな自分が情けなくて、膝の上で拳を握りしめた。


「お客様のお名前聞いてもいいですか?もう何度も通ってくれてるのに知らずに、すみません」


 確かに、私は名刺で彼の名を知っているけれど、自分の名は名乗っていなかった。名前も教えず、ただずっと告白だけを繰り返していたなんて。

 そんな状態で、興味を持ってほしいなんて願っていた自分に呆れる。


「紗希です」

「紗希さん、ありがとうございます」


 玲さんは小さく微笑んだ。
 私はただ俯いて、首を横に振る。

 初めて、名前を呼ばれた。喋れない自分が恥ずかしくて死にそう。
 名前を呼ばれた高揚感と照れくささで、顔に熱がたまる。


「…あの、俺のどこを気に入ってくださって…?」


 恐る恐る問いかけてくる玲さんに、正直に答えるべきか悩んだ。

 きっかけは、友人のインスタグラム。それを見ただけで好きになりました、なんて引かれないだろうか。

 だけど、嘘をつくのも嫌で、私は正直に打ち明けた。


「…最初はお恥ずかしい話、その綺麗なお顔がきっかけでした…」

「ああ、…ありがとうございます」


 玲さんは、ほんの少しだけ照れくさそうに笑った。
 いつもは大人っぼいのに、その笑顔がどこかあどけなくて可愛い。

 初めて見る表情に、胸の奥がキュンと鳴った。
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