執拗な恋、夜を飲み干す。
「今日もありがとう。また来てね」

「あの馬鹿に言っといて! ダーツに勝ったくらいで酒奢らせるなって!」

「はいはい。言っとくから。気を付けて帰って」


 心臓がどくん、と跳ねた。客を見送るその男性こそが、私が一目惚れした相手だったから。

 思わず目を見開いて固まってしまう。すると、彼はふと私に視線を向けた。そして、柔らかく微笑んで、「入られますか?」と、心地よい低音で問いかけてきた。

 画面越しなんて比にならない。実物は、恐ろしいほどに顔が綺麗。おまけに、すらりと伸びた背筋に、驚くほどスタイルもいい。


「あ…、あの…」


 舞い上がって言葉が出てこない私に、彼は軽く首を傾げ、返事を待ってくれている。

 好きな人の前では、まともに会話すらできないらしい。恋愛経験も、男性経験もない自分という存在が、今はひどくもどかしい。


「は、は、入ります…」


 蚊の鳴くような声でようやく返すと、彼はまた優しく微笑んで、中へと招き入れてくれた。

 店内はそれなりに賑わっている。特に盛り上がっているのはダーツエリアのようだ。この店の制服なのだろうか。黒いシャツに身を包んだ男性が、カウンターの向こうにもう一人いた。

 私の一目惚れした男性は、ほんのり赤みがかった髪色をしているけれど、あちらは艶のある黒髪。おまけに、目の下には印象的な泣きぼくろ。好きな人にはたまらないだろうな、と思わせる、彼とはまたタイプの違う整った顔立ちをしていた。
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