執拗な恋、夜を飲み干す。
────Side 紗希


 翌週、私は気まずさを抱えながらも、再びバーのドアを開けた。

 カウンターにいた玲さんと目が合う。
 彼は少しだけ目を見開いたあと、ふわりと微笑んだ。

「こんばんは」

「…あの、先週はすみません」

「全然。あ、先週のお釣りお渡ししますね」


 彼はレジからまたあの封筒を取り出し、私に差し出した。

 既視感のある光景に軽く会釈をして、促されるままカウンター席に座る。いつものカシスオレンジを注文したけれど、さすがに今日は、開口一番に告白する勇気は出なかった。

 玲さんはお酒を出すと、別の客に呼び出されてBOX席へ向かってしまった。代わりに入れ替わりで戻ってきた雅さんが、私の前で顔を出す。


「どうも」

「…こんばんは」

「そんな警戒しなくても、取って食ったりしないって」

「そんなこと疑ってません」

 
 即座に言い返すと、雅さんは楽しそうに肩を揺らした。

 相変わらず、この人も掴みどころがない。玲さんの場合は、壁を作って牽制してくるけれど、雅さんの場合は、ひらりとかわすような掴めなさ。二人ともタイプは違うけれど、相手にするには骨が折れる。


「取って食ったりしないって、そもそも彼女いませんでした?」

「そう。気の強い女が。多分今から来ると思う」

「気が強いって?」

「彼氏に向かってクズとか、ぼこぼこにするって言ってくる。そんな彼女いる?」

「ふふ、何それ」


 雅さんの呆れたような物言いに、思わず笑みを零した。

 その言葉の端々からは、雅さんがそれを決して嫌がっていないことが伝わってくる。うまく関係を築けているというのがわかり、少しだけ羨ましく思えた。
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