執拗な恋、夜を飲み干す。
「…迷惑、というか、俺は受け止めることはできても、同じ気持ちをお返しすることはできません。それは、紗希さんだから、ではなくて、今後どんな方が表れても、です」

「…どういう意味ですか?」

「俺は、恋愛をすることが怖いんです」


 初めて聞く、彼の弱音だった。

 理解が追いつかない。完璧に見える彼が、恋愛をすることが怖いだなんて。


「大学時代も、女性と交際したことはありますが、一日も続かなくて、それ以来、誰とも付き合ってないんです」

「…それは、その人との恋が原因で?」

「いや、もっと前から」


 そう話す玲さんの表情は険しく、グラスを持つ手さえ微かに震えていた。
 こんなに脆そうな彼の姿を見たことがない。

 私はそっと、触れてもいいか確かめるように、彼の視界に入るようゆっくりと手を伸ばした。触れる寸前、拒絶されないか彼の目を見つめてから、そっとその手の甲を包み込む。

 玲さんは自分の手元を見つめ、少しだけ目を見開いた。
 それから、困ったように眉を下げて笑う。


「こんな風に、女性に触れられること、慣れてないので」

「…嫌だったら言ってください」

「嫌ではないです。でも…、何だろうな。紗希さんの前だと話し過ぎる気がする」


 そう言いながら、玲さんは手のひらを返し、ゆっくりと私の手を握り返してくれた。彼の震えは次第に落ち着いていく。


「…中学の時、好きだった女の子がいたんです。小学校から同じで、中学二年くらいまで」

「え?」


 彼の過去の話。聞けるなんて思ってもみなかった。

 彼が好きになるのはどんな人だったのか。
 それを知りたいと、ずっと思っていた。
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