執拗な恋、夜を飲み干す。
「あの子は、正義感が強くて、友達思いで、いつも笑顔が素敵な明るい子でした。学校でも、学校の外で会っても」

「…その方とは、お付き合いされたんですか?」

「いや、出来なかったんです」

「そう、ですか」


 できなかったという言い回しに、違和感を覚えた。
 告白する勇気が出なかった、ということなのだろうか。
 それとも、何か別の事情があったのか。

 これ以上踏み込んでもいい話なのか分からず、言葉を濁していると、玲さんは重く、静かに一息を吐いた。


「気分のいい話ではないですが、話しても、いいですか? もし、聞きたくなければ、ここでやめます」


 これを聞けば、彼が恋愛に踏み込めない本当の理由がわかるはずだ。だけど思い出させることで、彼を深く傷つけてしまうかもしれない。そう思うと、胸が締め付けられ、返答を躊躇った。

 でも、もし彼がずっと誰にも話せず、たった一人でこの痛みを抱え続けてきたのだとしたら…、それを支えたいと願ってしまう。

 玲さんの瞳を見つめると、彼は逸らすことなく、まっすぐにこちらを見ていた。


「…聞いたら、踏み込ませてもらえますか? 玲さんの内側に」


 恋人になりたいとか、そんな意味じゃない。
 ただ、あなたの心に、少しでも寄り添いたい。

 玲さんは私の言葉に、一瞬だけ驚いた表情を見せた。だけど、すぐにまた困ったように眉を下げて笑うと、静かに「はい」と答えてくれた。

 その言葉を受け、私が小さく頷くと、彼はほんの少しだけ、握り合った手に力を込めた。
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