執拗な恋、夜を飲み干す。
 それから俺は、極力彼女の傍にいるようにした。小さな異変も、彼女が発する微かなSOSも、決して見逃さないように。

 彼女は相変わらず、みんなの前では太陽のように明るく振舞っていたけれど、俺と二人きりになると、ふとした瞬間に暗い表情を見せることが増えていった。

 明音が抱えていたのは、両親による虐待だった。

 彼女の母親は明音が小さい頃に離婚したが、すぐに新しい男を連れ込んできた。その男こそが、明音を人間扱いもしない、ひどい男だった。

 それを知ったのは、中学一年生の終わり際だった。いつも明るい彼女が、実は家で殴られ、時折、襲われることさえあるのだと。

 当時の俺には、彼女を救い出す現実的な方法なんて、一つも思い当たらなかった。無力な子供が必死に絞り出した答えは、「一緒に逃げよう」という稚拙なものだった。彼女のためなら、俺も学校も家も捨てて、どこか遠くへ行く。それだけを考えていた。

 今の俺なら、それが最善策ではないことなど痛いほどわかる。警察や児童相談所、然るべき大人たちを頼るべきだった。だけど、あの時の俺達はあまりに子供で、何も知らなかった。何もできなかった。今の便利な時代のように、調べたら知恵をくれるような、文明の機器なんかもなかった。

 明音は、一緒に逃げようという俺の誘いを何度も断った。その度に、「なんとかなる!  死にはしないよ!」と無理に明るく笑う。本当は、今すぐにでも泣き叫びたいほど苦しいはずなのに、彼女は最期まで、強がることをやめなかった。
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