執拗な恋、夜を飲み干す。
───Side 紗希


 すべてを聞き終えたとき、私は自分でも気づかないうちに涙を流していた。

 この人は、心から大切だった人に、最後まで気持ちを伝えきることができなかった。そしてその言葉は、もう二度と、届くことはない。

 泣かないと決めていたはずなのに、止めどなく溢れる涙が頬を伝う。玲さんはそんな私の様子を予感していたのか、困ったように眉を下げ、ほんの少しだけ穏やかな笑みを向けた。


「…同情を誘いたかったわけでもないんです。ただ、紗希さんは、あまりにもまっすぐぶつかってきてくれるし、それに、俺はこんな事情があって恋愛もできなくて、そんな俺なんかの為に時間を使ってほしくない」


 彼の言葉を遮るように、私は何度も首を横に振った。

 それから、迷惑かもしれないと分かっていながら、抑えきれない衝動のまま、力強く彼を抱きしめた。どんな言葉を紡げばいいのか分からなかった。どんな慰めも、彼が背負ってきたものの前では気休めにしかならない気がして。

 玲さんは戸惑ったように少しだけ苦笑し、やがて私の背中にゆっくりと腕を回した。そのまま、子供をあやすように優しく撫でてくれる。


「…誰にも、言ったことなかったんですけどね。こんな話。明音のことだって、きっと俺の同級生しかわからないと思います」

「…じゃあ、これからは全部知ってる私に甘えてください」

「え?」

「一人でいたくない時とか、必要な時はそばに居ますから」


 私は、震える彼を強く、つよく抱きしめ続けた。


「でも…、俺には何も返せない」


 その声は、微かに震えていた。

 誰かの好意を受け取ることが怖くて、傷つかないための拒絶しか知らない。
 本気で一人でいいと思っている人間なんて、この世にはいない。

 この人はきっと、ずっと一人でいいと言い聞かせて、仕事だけが自分の生きる道だと必死に肯定してきた。

 だから、私はそれを否定しない。
 あなたの隣で、ただただ支えていたい。
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