執拗な恋、夜を飲み干す。
 それから翌週、私はまたいつものようにバーへ顔を出した。

 お店のドアを開けると、玲さんと目が合う。彼は私の姿を見つけるなり、少しだけ目を見開いた。それから、いつもとはどこか違う、少し照れくさそうで、それでいて気まずそうな、これまでに見たことのない表情で笑い、「紗希さん、いらっしゃいませ」と声を掛けてくれた。

 そのぎこちない微笑みに、私も小さく微笑み返し、いつものカウンター席へと腰を掛けた。


「玲さん、いつもので」

「はい」


 そう言って、彼は手際よくカシスオレンジを作り始める。グラスの中で混ざり合う色彩、氷の音、無駄のない所作。いつ見ても彼がお酒を作っている姿は好きだけれど、今は違う。

 これが彼の人生で唯一やりたいことで、一番大切なもの。そう知った今、その姿は以前にも増して愛おしく感じた。

 心なしか、今日の玲さんは以前よりも表情が柔らかい。ずっと一人で抱えてきた澱《おり》が、少しだけ流れ落ちたような、そんな清々しささえ感じさせる。

 私の存在が、ほんの少しでもいい。彼がこれから生きていくうえで、心を楽にできる場所になれたらいいと思った。
 
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