執拗な恋、夜を飲み干す。
「…いつまで経っても、最後に明音と話した電話が、忘れられなくて…。未だに、夢にすら出てくるんです。あの日のこと」

「君は、十分明音に向き合おうとしてくれた。あの子も、きっと君がそんな風に自分を追い詰めるのを見たくないんじゃないかな」


 玲さんの拳が、目に見えて震えている。

 私はただ、隣に寄り添うことしかできなかった。明音さんのことは何も知らない私から、彼に掛けられる言葉なんて一つもなかったから。だからこそ、お父さんの温かい言葉に、私まで救われたような気持ちになった。

 何もできなかった自分。だけど、他ならぬ明音さんのお父さんがこうして伝えてくれたことで、少しでも玲さんの心が軽くなればと願っていた。


「明音は、最後に会った日も君の話してたな」

「え?」

「冷たく見られてるけど、本当は誰よりも優しい人間なんだって。まっすぐで、何も気にせず、言いたいことは言ってくる君を尊敬してたって言ってた」

「……」


 玲さんはたまらず顔を覆い、涙を隠した。

 こんなところで、こんな形で彼女の本当の気持ちを知るなんて、あまりにも切なすぎる。彼女自身の声で、直接聞きたかったはずの言葉。


「だから、"明音の大切な人"には幸せでいてほしいな」


 その言葉に、私の頬にも涙が伝った。

 お父さんは、ずっと前から彼女の本音を聞いていた。

 あと一歩だった。彼と彼女、二人の想いが通じ合えるまで、本当にあと少しだったのに。やりきれない。その尊い瞬間を、理不尽に、他人の手によって奪われてしまったのだと思うと、胸が潰れそうになる。

 この日、私は初めて玲さんが涙を流す瞬間を見た。
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