執拗な恋、夜を飲み干す。
 一緒に夕飯を済ませた後、私は玲さんと宿泊先のホテルの前で向かい合った。

 玲さんはこのまま実家に戻るそうで、ここで一度お別れだ。


「今日は、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。連れてきていただいて」

「観光する所も無くて、連れていける場所も無くて申し訳ないのですが」

「あ、じゃあ、明日は玲さんが通ってた中学校や、高校とかに寄ってみたいです」

「え?」


 当時、玲さんや明音さんが過ごしていたこの街を、自分の目で見て回りたいと思った。


「そんな面白いものでもないですけど」

「今、玲さんの地元に来られてるんだなと思うだけでも、楽しいです」


 そう言って笑いかけると、玲さんもふっと目尻を下げて、優しい表情で笑った。

 出会ったばかりの頃よりも、随分と柔らかな顔をするようになったと思う。
 それだけでも、私にとっては大きな変化のように感じられて嬉しかった。


「わかりました。明日、十五時の新幹線なので、十時にはここに来ます。それから、少しだけご案内しますね」

「はい、わかりました」

「それでは、また明日」

「はい、また明日」


 言葉を繰り返し、遠ざかっていく玲さんの背中を見送ろうとした。

 一度背を向け、離れていった彼だったけれど、不意に足を止めると、もう一度こちらを振り返った。


「あ」

「ん?」


 声を漏らした玲さんに首を傾げると、彼は真っ直ぐに私を見つめ直した。


「今日、一緒にいてくれたのが紗希さんでよかった」

「え」

「言えてなかったので。それじゃあ」


 それだけを言い残すと、今度こそ彼は歩いて行ってしまった。
 呆然とその背中を見送る私の頬が、じわじわと火照っていく。

 好きだとか、そんな甘い言葉を囁かれたわけじゃない。だけど、私にとってはどんな愛の言葉よりも特別で、震えるほど嬉しい言葉だった。
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