執拗な恋、夜を飲み干す。
「地元に帰ってくると、話過ぎてしまいますね。なんとなく」

「いろいろ蘇るんでしょうね。あれもこれもって、思い出が」

「確かに、忘れてたことも思い出したかも」


 そう話しながら、ゆっくり駅までの道を歩いていた。

 そんなに人が多い町でもないけれど、それなりに賑わっていて、温かいなと思った。


「紗希さんは、どんな学生時代過ごしてたんですか?」

「私は…、実は絵を描くのが好きで、中高美術部だったんです」

「へぇ。てことは、絵が得意なんですか?」

「いや、そんな誇れるほどではないんですけど、ただただ好きでした」


 私は何かに没頭するのが好きだった。

 その頃、私がこの歳までまともに恋愛を出来なかったのは、ほんの少しの出来事がきっかけだった。隣のクラスで人気のある男の子に教科書を貸した。たったそれだけのこと。困っていたから貸してあげた、ただの善意だった。

 だけど、他にも貸したかった女子達に「出しゃばるな」とか「良い子ぶってる」と陰口を叩かれた。自分が上手くクラスの人と付き合えなかったことにも問題はあったと思う。

 余計に誰かを好きになることが怖くなって、私はふさぎ込んだ時期があった。そんな時、時間も忘れられて、周りの音が聞こえなくなるくらいに熱中出来たのが、絵だった。

 見るのも好き、描くのも好き。とにかく真っ白な画材に、好きなように表現ができることを美しいと思っていたのだ。
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